第42話 聖王との戦い①
「……世界の真実を聞いた? 蛮族の世迷言でしょう」
「初めに話を聞いたのはエルフからだけど、俺たちは星の記憶から真実を知ったんだよ」
「星の記憶?」
穏やかな声で聞き返してくる聖王。
俺は出来る限り冷静に話を続ける。
「星が持っている記憶さ。お前の過去を見させてもらった。【
ピクッと眉を動かす聖王。
そして僧侶のような神聖な笑みの仮面を取り、下衆めいた笑い顔をこちらに向ける。
「で、お前たちの目的は何だ? 俺を倒して世界に真実を伝えるつもりなのか? それだったら止めておくことをお勧めする。だってそうだろ? 人間は聖王としての俺を信用しているのだから。お前みたいな小物が何を言ったところで世界は変わりはしない」
「そうかもな。でも、そうじゃないかも知れないぞ」
短剣を構え、聖王の動きを窺う。
奴はゆっくりと立ち上がり、首をコキコキ鳴らす。
「猫を被るのも楽じゃない。兵士たちが見ていない間に勝負は終わらせてもらう」
「猫なんて被るから楽じゃないんだよ。いつだって真っ直ぐ生きてれば、結構楽しいもんだぜ」
「人の上に立ち、民衆から崇められている方が楽しいんだよ。俺はこれからもこの地位を手放すつもりはない」
「意見は全く合わないようだな。だったら力尽くで世界を救わせてもらう」
「ふん……ベヒーモスに殺されると思っていたんだがな。まさかこうして生きて帰って来るとは思ってもいなかったよ」
「何だよ。あれは純粋な依頼じゃなかったのかよ」
聖王はもう一度鼻で笑い、殺人鬼のような視線を俺に向ける。
「俺は俺を崇めない奴は許さない。この俺に向かってため口をききやがったお前を許せなかったんだよ」
「お前、メチャクチャ小さい人間なんだな。3000年も生きてきて、その程度の器しかねえのかよ」
「器が大きいからこそ聖王としてここに君臨している。3000年も生きてきたのも神に愛されているからだ」
俺は呆れため息をつき、聖王を半目で見る。
「お前、思っていた以上に小物みたいだな」
「俺を……聖王である俺を小物扱いするか! この下郎が!」
聖王の全身から紅い稲妻が走る。
それはピシピシと地面を割り、石造りの床を砂状に変化させていく。
「それが【
「そうだ! そして貴様の命も吸収しきって、この世から抹消してくれる!」
「悪いけど、勝つのは俺だ」
掌を聖王に向け、奴の『力の扉』を閉じようとする。
しかし効果は無い。
最近は、相手の扉を閉じる距離は広がっていたはずなのだが……
5メートル先にいる聖王の扉を閉じることができないところを見ると、こいつは相当な実力者のようだな。
背筋がゾワッとし、俺は一旦距離を取る。
動かない聖王であったが、全身から吹き出す紅い稲妻がこちらに向かって走って来た。
「ほうら! 逃げないと命を吸い取られるぞ!」
「四聖以上の強さかよ……」
稲妻を飛んで避け続ける俺をあざ笑う聖王。
「俺には3000年蓄積し続けた力がある! それに力は現在進行形で上昇し続けているのだ。たかが一冒険者に負けるような俺ではない!」
「それだけ世界の命を吸い続けてきたってことかよ! 皆を騙し続けて、絶対に許さねえからな!」
バトルマギを発動させ、加速する俺。
稲妻を避けて聖王へと近づいて行く。
「その程度の速度で俺に勝てると思ったら大間違いだ! 俺は――お前よりも迅い!」
「なっ!?」
まるで消えたように見える聖王の体。
気が付くと目の前にまで移動してきていた。
俺は無意識で短剣を振り下ろす。
しかし聖王は、紅いオーラで纏った右拳で迎え撃つ。
ガキンッと金属同士をぶつけたような音が鳴り響く。
俺は一度距離を取り、大量の冷や汗を腕でぬぐう。
「迅さも強さも俺の方が上だ。早々に諦めるんだな」
「諦めるかよ……俺はお前を倒し、未来の扉を開くんだよ!」
「お前が開くのは、地獄への門だけだ!」
さらに勢いよく稲妻を走らせる聖王。
床がドンドン砂状へと変化していき、まるで砂漠を彷彿させるようだ。
俺は稲妻を避けながら、短剣を腰にしまう。
それを見た聖王は、ニヤリと笑みを浮かべる。
「やはり諦めたのか? そうだ。お前は俺には勝てないのだ!」
「んなわけあるか! お前に勝つために武器をしまったんだよ!」
「武器をしまって、どうやって俺に勝つ!?」
残像を残すように、その場から消える聖王。
また気が付けば、俺の目の前に現れる。
「今度こそきっちり止めを刺してやる! 死ね!」
まるで時間が止まったかのように、相手の拳がゆっくりと動くのが見える。
死ぬような目に遭う時は、こんな風に時間がゆっくり動くなんて話を聞いたことがあるが……本当だったんだな。
少しずつ接近して来る聖王の拳。
だが俺は、こんなところで死ぬつもりは、ない!
俺は聖王の拳に対して、胸を突き出した。
そしてとうとう俺の胸に、聖王の超人じみた拳が届いてしまう。
「……ど、どういうことだ!?」
しかし、驚愕するの俺ではなく、聖王の方であった。
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