第37話 聖王の過去

 昔、昔、一人の少年がいた。

 その少年は生まれつき体が弱く、大きな屋敷のベッドで横になっていることが多く、いつも走る子供たちを遠くから見つめる物静かな子供であった。


 そんな孤独な少年は変わった技能を所持しており、花などから命を貰って、辛い体を癒すことができたのだ。


――【吸収ドレイン】。


 それが少年の技能であった。


 【吸収】によって命を吸収した時は幾分、体の調子が戻るので少年は辛さを和らげるために花から命を貰い続ける。

 と言ってもそれができるのは調子のいい時だけであった。


 少年の技能に気づいた金持ちの両親は、毎日毎日、花を購入するようになる。

 今までは外の花から【吸収】していたが、家の中でも辛さを癒せるようになり、そしていつしかその技能は進化を遂げた。


 花から少しづつ命を貰っていたものが、根こそぎ吸収できるようになったのだ。

 それに比例して、急速に元気を取り戻していく少年。


 そして少年はその頃から暴走を始める。


 近所を走っていた少年を呼び止め、近くの森の中へと一緒に向かい、そこで少年の命を全て吸い取ってしまったのだ。

 命を吸い切られてしまった少年は遺体として森に放置され、その日の晩に町の人々に発見されることとなる。


 それはモンスターの仕業だと処理され、少年はその日の晩、ベッドの上で笑い転げた。


 両親にとっては笑顔を絶やさない、素直でいい子供。

 だが両親も含めて家政婦たちも自分のことを甘やかしてくれていた。


 それが仇となったのか、少年は自分を世界の中心だと考え始めていた。

 笑顔を絶やさなければ皆いい顔をしてくる。

 だから少年は笑顔で他人と接することを心掛けていた。


 人間から命を吸うと元気になり、力が以前よりも強くなっていくことが分かり、人から命を吸い取るのが癖になり始める少年。

 自分がやったこととはバレはしないが、町では人の命を奪う化け物がいると話題になり始め、少年は町での【吸収】を控えるようになっていた。


 その代わり、旅をする人たちを町の外で襲い、人の命を奪い続ける。

 だがこれも町で問題となりつつあったので少年はターゲットを変えることとなった。

 次に狙ったのはモンスター。

 【吸収】によって高まり続けた力は、彼が18歳になる頃には並みのモンスター程度なら問題なく倒せるようになっていた。

 ターゲットをモンスターに変えても、人間と比べて遜色ないぐらい力を得ることができるということを知り、これ以降は人間を狙うことをやめる少年。


 モンスターと戦うという危険な選択をせず人間から【吸収】を続けていたが、モンスター相手にでも楽に勝てることを知った少年は、これ以降箍が外れたようにモンスター相手に【吸収】をする。


 少年が二十歳になると、いつしか彼は『英雄』などと呼ばれるようになっていた。

 町を守るためにモンスターという危険に自ら投じる。

 そんな風に言われ英雄と呼ばれることに気をよくしていく男。

 人から祭り上げられることに喜びを覚え始めていた。


 そして技能も進化を続け、とうとう星から【吸収】することが可能となる。

 この頃はまだ星から命を吸い上げるような真似はしなかったが、男が50代に突入した時に、自身の老いに絶望した。

 

 このまま自分は死んで行くのであろうか?

 そんな不安に駆られる中、星から命を吸収することができることを思い出す。


 試しに星から命を吸収すると――なんと肉体が若返っていくではないか!

 

 それを知った男は、その日から自分の命と若さのために星から命を奪い続けることとなる。


 男は英雄としての活動を続け、人間の王の地位まで上り詰めていた。

 エルフの王やドワーフの王とも親交があったのだが、他の王たちに星の命を吸っているという事実に感づかれることとなり、彼に詰め寄るエルフ王とドワーフ王。


「お前の若さ……星の命を奪うことによって得た物らしいな。そんなことは今すぐにやめろ!」

「何故?」

「何故だと!? お前がこの世界の命を吸い続けることによって、大地が枯れてゆくことが分かった! お前にだってそれは分かっているはずであろう!」

「だから何だと言うのですか? 星が……世界がどうなろうとも、私が若さを保てるなら、生きながらえるならそれでいい。他のことなどどうでもいいのです」

「く、狂ったか! 人間の王よ!」

「狂っていると感じるのはあなた方の感性でしょう。他人の気持ちが理解できないのなら、これから先私たちは分かり合うことはできない」

「他人の気持ちを述べるなら、お前が他の生き物の気持ちを考えろ!」


 怒鳴るドワーフ王とエルフ王。

 しかし、人王はニヤリと笑うだけ。


「それは違う。他の生き物が私の考えを理解すれば、全て上手くいくのです。世界は全て私の物。それを理解できない下等生物たちばかりだから、人々は分かり合うことができないのです」

「完全に狂ってしまっているようだな! 貴様は!」


 ドワーフ王は人間の王に掴みかかろうとする。

 しかし王は圧倒的な力を振るい、ドワーフ王を木っ端みじんにしてしまう。


 それを見たエルフ王は逃げ去り、人間の王から世界を解放するために戦力を整え始める。

 色んな種族が集まり、人王との決戦に挑もうとした。


 だが、星の力をさらに吸収した人王の前には為す術もなく、その戦いは敗北として終わってしまう。


 人王はその戦いでさらなる名声を手に入れ、人間を守る聖なる存在――


 聖王として人間界の頂点として君臨し続けるのであった。


 そして名目は人間を他の種族から守るためと世界に壁を造り、人間の住む場所を世界から隔離してしまう。

 これは他種族との交流を絶ち、世界の真実を人間たちに知らせないためであった。


 こうして聖王は3000年間も人間たちの王としてその地位に居座り続け、そして生きながらえ続けているのであった。

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