第36話 真実
「ムウちゃん!」
飛翔してくるナイフを目の当たりにし、義母さんたちが声を上げる。
しかし俺は冷静にそのナイフを凝視し、当たる直前に右手の人差し指と中指で挟み込んで止めた。
ホッとするモモちゃんたち。
俺はナイフを左手で持ち、女王を見据える。
「えらいご挨拶だな。人間とは会話もできないってか?」
「今ので死ぬ程度の人間とは会話はできない、ということよ」
「……試したのかよ」
「最低限の実力はあるみたいで安心したわ」
俺と女王は笑みを向け合うが、義母さんはプンプン怒りを露わにしている。
「うちの息子が死んでたらどうするつもりなんですか! 死んでだら……死んだら悲しくて私生きていけないー!」
怒ったかと思えば今度はわんわん泣き出す義母さん。
女王たちは耳を押さえ、義母さんの泣き声に耐えている。
「義母さん。俺は生きてるんだからもういいだろ? エルフの皆も必死なんだよ。真実がどうあれ、聖王様と戦おうとしてるんだ。強大な敵を前にしてるんだから、人を試すぐらいのことはするだろうさ」
「ムウちゃんたちを傷つけるような人たち、お母さん許さないもん」
「大丈夫。何かあったら俺が本気で暴れる。傷つけられる前に全滅させてやるから。な?」
「凄い自信家のようね、あなた」
「事実を言ってるだけさ。本気でやれば、ここにいるエルフぐらいなら余裕で勝てると思うぜ」
「……ベヒーモスに勝てると言う話が本当なら、その言葉も真実でしょうね」
女王は大きく息を吐き、義母さんに頭を下げる。
「いきなり失礼なことをして申し訳ありませんでした」
「女王様! 人間などに頭を下げないでください!」
周りにいた戦士たちが女王に叫ぶように言う。
だが女王は冷静な声で彼らに話す。
「この人たちは現状を打開する切り札となるかも知れない……そんな人に失礼なことをしたのは私です。頭を下げるのは同然のことでしょう」
この人は善悪の判断がしっかりできる人のようだ。
何がよくて何が悪いか。
聖王のこともしっかりと判断しているってことだよな。
俺はさっそく彼女から聖王のことを聞くことにした。
「それで、ルールーが言っていたことは真実なのか? 聖王が世界を枯れさせたってのは」
「ええ。私も直接見たわけではないけれど、奴が自分のためだけに世界の命を吸い、生きながらえているというのは事実。それを見たのは5代前のエルフ王で、代々エルフの王族はそれを子供の頃から聞かされて育ってきた」
「それが事実だという証拠は?」
モモちゃんの刺すような言葉。
女王は少しだけ俯き、「ない」と一言だけ言った。
「女王かどうか知らないけどさ、証拠も無ければ話にならないわよ。なんか来るだけ無駄だったわね。おにぃ、帰ろ」
「モモちゃん。これが本当だったらどうするんだよ?」
「本当だったらパールバロンの城まで乗り込んで聖王様をぶん殴ってやるわよ。だけど、それを裏付ける証拠が無いんだからそんなことにならないわよ」
女王もルールーもモモちゃんの言うことに何も反論できないでいた。
聖王様のことを言い伝えで聞いているだけで証拠らしい証拠はありはしない。
確かに話にならないな。
これだけで彼女たちの話を信じるわけにはいかない。
だがここで義姉ちゃんは何かを思いついたらしく、俺の服をくいくいっと引っ張ってきた。
「どうしたんだよ、義姉ちゃん」
「…………」
俺の耳元で囁く義姉ちゃん。
消え入りそうな美しい声を聞き、俺は彼女にうんと頷く。
「ちょっと試してみるよ」
「お姉ちゃん、なんて言ったの?」
「俺の技能でそれを確かめられないかってだってさ」
「そんなの流石におにぃでも……」
「とにかく試してみるよ!」
俺はモモちゃんにそう返事するや否や、さっそく『心の扉』を開き、心の中へとダイブする。
◆◆◆◆◆◆◆
【鍵】の技能を内包した玉の前で俺は腕を組んで思案する。
【鍵】と組み合わせて、世界の真実を知ることができる技能……
そんなものあるか?
俺は相談でもするように、欲しい技能のことを口にする。
「世界の真実を知る技能が欲しい。それは習得可能か?」
もしかしたら声が教えてくれるかも知れない。
そんな淡い期待を胸に、いつも聞こえてくる声を待った。
(可能でございます。方法は二つ。一つは新たなる技能【全知】。そしてもう一つは
【技能創造】を使用し『星の記憶』の習得。このどちらかで世界の真実を知ることができるようになります)
二つも方法があるのか。
というか、聞いてみた良かったな。
俺はワクワクしながら二つの技能のことを考える。
【全知】というものを習得するのも悪くないな。
だけど、拡張性に難ありと言ったところか。
やはり【鍵】と関連付けしておいた方がこれからも成長を望めるし、それにこっちの方が俺らしいよな。
「よし。じゃあ【技能創造】で『星の記憶』を習得してくれ。ああ。ポイントは聞くまでもなく使用してくれて構わない」
(それでは【技能創造】を発動し、『星の記憶』を習得いたします)
宙を浮く玉が光り輝く。
俺はそれを確認するなら、表へと意識を戻した。
◆◆◆◆◆◆◆
目を開き、俺は地面に手で触れる。
そして深呼吸し、技能を発動させた。
「開け、『星の記憶』よ。俺に真実を教えてくれ」
「え? そんな都合のいい技能あったの?」
「あったんだよ」
モモちゃんに返事をしている最中に、俺の頭の中へと知りたい答えが流れ込んでくるような感覚があった。
この技能は星が持つ記憶にアクセスし、そこから知識や知恵を得ることができるようだ。
そして俺は一つの答えを知る。
それは――
エルフたちが言っていることが、真実であるということであった。
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