第35話 エルフの女王

「でもでも、どうやって事実か確かめるの?」

「うーん……分かんねえ!」

「だよね」


 俺と義母さんは腕を組みながら頭を悩ませていた。

 義姉ちゃんも何か考えているようだが、どちらかと言うとモモちゃんに同意しているような様子だ。


「どうせ嘘に決まってるよ」

「だからこれが嘘かどうかを調べるんだろ? もしこれが嘘じゃなかったとしたら、世界が大変なことになる」

「嘘じゃない」

「あんたはそう思い込んでるんだろうけどさ……」

「ルールーよりこの話に詳しい人はいるのか?」


 俺は呆れているモモちゃんの頭を撫でながらルールーにそう聞く。


「女王が一番詳しい」

「女王……エルフのだよな?」


 コクリと頷くルールー。


「ならその詳しい話を女王に聞かせてもらいたい。会わせてくれないか?」

「……どういうつもり? 寝返ったフリして暗殺でも企てているの?」


 急に警戒心を強くするルールー。

 俺は笑いながら自分の短剣をルールーに差し出す。


「そんなつもりはないさ。武器もルールーが預かってくれればいい。俺はただ真実を知りたいだけだ」

「……分かった」

「分かっちゃうんだ!? 私たち、人間とエルフだよ? 今まで敵対してきたってのに」

「でも、ムウは私のことを信じてくれた」


 呆れ返るモモちゃん。

 ルールーは俺をまっすぐ見つめている。

 彼女は短剣を突き返してきたので、俺はそれを腰に付け直す。


「じゃ、さっそく行こうぜ。善は急げって言うだろ」

「善かどうか分かんないけどね」

「ははは。確かにな」


 ◇◇◇◇◇◇◇


 壁の下に秘密裏に小さなトンネルを掘っていたらしく、俺たちはルールーに案内されるままそのトンネルを通り抜ける。

 

 壁の外に出た俺たちは、その光景に言葉を失っていた。

 見る限り世界が枯れ果ててしまっており、自然はどこにいった?

 と聞きたいほどの状態だ。

 乾いた風が吹き、寂しい気持ちだけが募っていく。


「こっち」


 モモちゃんと義母さんは少し落ち込んだような様子でルールーについて行く。

 義姉ちゃんは俺に甘えたいらしく、腕に手を回してきた。


「あなたたち、恋人なの?」

「違う違う。俺たちは義姉弟だ」

「……仲、いい」

「おう。仲いいぞ」

「言っとくけど、私だって仲いいんだからね」


 モモちゃんはいつもの感じに戻り、空いたもう一つの腕に手を回す。


「わ、私だって仲いいもん! 私たちは仲良し家族なの!」


 後ろから俺の首に飛んで手を回してくる義母さん。


「……本当に仲いいみたい。でもムウ苦しそう」

「え?」


 腕で息が止まっていることにようやく気付く義母さん。

 慌てて飛び降り涙ながらに謝ってくる。


「ムウちゃん……ごめんなさい!」

「大丈夫。気にしてないぜ、義母さん!」


 ニカッと義母さんに笑みを向ける俺。

 ルールーは顔色を変えないままぼつりと呟く。


「本当、仲いい」


 そのままルールーについて行き1時間ほど歩いたところで、集落のような物が見えて来た。

 どうやらエルフたちが暮らしている集落の一つで、あそこに女王もいるということだ。

 というか、こんなところに女王がいるのかよ。

 見た感じ今にも壊れそうな廃墟の集まりみたいだぞ……

 女王って言うぐらいだから、もっと清潔で格調高い場所に住んでるとばかり思ってた。


 俺の思考に感づいたのか、ルールーは寂しそうに呟く。


「人間の住んでいる場所以外はどこもこんな様子。まともな場所も無いし、どこに住んでても一緒」

「そうか……」


 女王の住む集落に到着すると、エルフの戦士らしき男二人がこちらに気づき、弓を引き始める。


「待って。この人たちは味方……かも知れない」

「ルールー。どういうことだ?」

「この人たちは一緒に聖王と戦ってくれるかも知れない。だから女王様と会わせてあげてほしい」

「……そうだったとしても、人間の力など必要ない! そんな奴らがいたところで戦力は大きく変わらないだろ!?」

「でも、簡単にベヒーモスを倒してしまった」


 ルールーの言葉に驚愕する戦士たち。

 目を丸くして、俺たちを見ている。


「ベ、ベヒーモスを倒しただと……」


 コクリと頷くルールーに、ハッとして戦士は集落の中へと駆けこんで行く。


 数分するとその戦士は集落の入り口まで戻って来て、不機嫌そうに俺たちに言う。


「入れ。女王様がお会いするようだ」


 集落の中へと通される俺たち。

 中はボロボロの小屋ばかりで、質素を通り越した生活をしているのか、やせ細ったエルフばかりであった。

 そのエルフたちを見て、義母さんたちは同情しているのか、暗い表情を浮かべている。


「女王様、人間をお連れしました」

「入りなさい」


 集落の一番奥にある小屋。

 その小屋へと入ると、そこにいたのは青い髪でとびっきりの美人エルフであった。

 白い布の服を身に纏っており、衛生状態の悪い場所にいるはずなのに全身から高貴な雰囲気を醸し出している落ち着いた女性である。


 彼女はジッと俺を見つめたかと思うと――


「!!」


 テーブルの上に置いてあったナイフをこちらに向かって投げつけてきた。

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