第24話 ムウVSデーモンド②

「来い!」

「ひぃ!」


 ギミーを強引に引き寄せ、彼女のスカートを引きちぎるデーモンド。

 左手首にスカートの切れ端を結び、失血を抑える。


 猫背からさらに姿勢を低くし、殺気だらけの視線を俺に向けるデーモンド。


「お前みたいにぬるま湯に浸かってるような男に負けるわけにはいかない」

「人の温かさを知らねえのは可哀想だな。その点は同情してやるよ」

「人を従わせる快感が分からないのも可哀想なもんだぜ」


 こいつとは考えが合わないし、理解し合うことはできそうもない。

 分かり合うつもりなんて最初からないけど、ここまできたら苛立ちさえも感じる。

 こいつはどうしようもないほど、悪に染まっている。

 

 悪とは自分の利益しか考えていない者のことだ。

 こいつは他人を傷つけてでも自分が得をすればいいと考えている。

 自分に従うよう暴力で従え、自分の都合のいいように人を操って……

 そんなの、許せるかよ。


「快感なんてほどほどでいいんだよ。必要以上の快感なんて毒でしかない」

「毒を含んだキノコほど美味いって話だぜ」

「だったら、毒でも食って死んでろよ!」

「げひひひっ……死ぬのは、お前だ!」

「!?」


 突如デーモンドは、ギミーを俺の方に突き出した。

 何が起こったのか理解できず、戸惑っているギミー。

 さらにデーモンドはそんな彼女の背中を全力で蹴り飛ばした。


「てめえ! 女に何しやがる!」

「女は道具! 快楽を得ることと物事を上手く動かすための道具にしかすぎない!」


 俺は吹き飛んで来るギミーの体を抱きとめる。

 しかし。


「うぷっ……」


 ギミーの胸の辺りを聖剣で貫いて、彼女の体ごと俺を殺しにかかるデーモンド。

 俺は咄嗟にギミーの体を手放し、距離を取る。


「お前……殺すことないだろ!」


 デーモンドは横に向かって走りながら叫ぶ。


「弱さは罪! 強い俺に殺される、弱い奴の方が悪い!」

「弱いなら守ってやらねえとダメだろ! 強さってのは、弱者を守ってやるためにあるんだよ!」

「だったら――」


 デーモンドはカウンターの向こう側に飛びこみ、眠るモモちゃんの体を抱き起し首元に聖剣を当てる。


「お前はどうやってこの女を守るんだ!?」

「モモちゃん!」


 義母さんと義姉ちゃんがモモちゃんの姿を見て、俺の背後であっちに行ったりこっちに行ったりと慌てふためく。


「……おい、我慢にも限界ってもんがあるんだぜ……もし、もしお前がモモちゃんを傷つけるようなことがあれば、何が何でもお前を殺す! いいか! 俺の家族に手を出す奴は、何人たりとも許さねえ!」

「うっ……」


 俺の剣幕に押され、デーモンドはたじろぎ顔を引きつらせている。

 一歩足を前に出す。

 デーモンドは怯え、こちらに剣を突き出した。


「く……来るなぁ……俺は親父に勝って、自由になったんだよ」


 涙を浮かべガタガタ震えるデーモンド。

 俺は黙って奴に近づいて行く。


「自由になったのに……なんでまた出て来るんだよ、親父ぃ!!」


 幻覚なのか、それともおかしくなって俺を自分の父親だと勘違いしているのだろうか。

 どちらにしてもデーモンドは自分の父親の姿が見えているのだろう、こちらを見ながら怯えている。


 今ならモモちゃんを助けられる。

 そう踏んだ俺は一気に距離を詰め、奴の上に飛び乗った。


「これがお前の言っていた正義だ!」

「がふっ!」


 渾身の力を込めて、デーモンドの顔面を殴り付ける。

 顔は弾け、歯が折れ、血が噴き出す。

 それでも俺は何度も何度もその顔面に拳を叩き込んでいく。


「こんなもんが正義かよ! ふざけんな! こんな……こんな」


 怒りのままに殴りつけていた手を止める。

 奴の顔は腫れ上がり、ピクピクと痙攣を起こしていた。

 俺は冷静さを取り戻し、デーモンドから手を離す。

 ドサッと倒れるデーモンド。

 代わりにモモちゃんの体を抱きかかえ、奴から離れる。


「他人を不幸にするだけの力が正義なわけないだろ」


 俺はカウンターから離れ、義母さんと義姉ちゃんの下まで移動する。

 ホッした表情を浮かべている義姉ちゃん。

 

「ああっ!?」


 しかし義母さんは驚愕の表情を浮かべ、俺の背後に視線を向けていた。


「暴力は全てを解決する! これからも俺は暴力で全てを手に入れてみせる!」


 デーモンドは血まみれの顔で聖剣を振りかざし俺に飛び掛かって来ていた。

 俺の首元まで迫る刃。

 デーモンドは勝機に笑みを浮かべている。


「ムウちゃん!」


 義母さんと義姉ちゃんが顔を伏せる。

 俺はモモちゃんの体を左手だけで支え、右手で短剣を抜き取り聖剣を受け止め、力づくでそれを弾き返す。


「なっ……」

「バカ野郎……」


 そのまま返す刃でデーモンドの首に短剣を通すと、奴の頭が天井付近まで跳ね上がる。

 倒れる体。

 コロコロと地面を転がる頭。

 俺は静かにデーモンドの死体を見下ろした。


 意識があったのも分かっていたんだ。

 そのまま倒れておけばよかったものを。


 俺はため息をつき、短剣を腰の鞘に戻す。

 そして義母さんたちに笑顔を向ける。


「怖い思いさせてごめんな」

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