第25話 捕らわれるムウ

「ん……おにぃ」

「大丈夫か、モモちゃん」

「うん」


 意識を取り戻したモモちゃん。

 少しばかり怪我をしていたようだが、『回復の扉』を開いておいたので、すでに完治している。

 モモちゃんは一度周囲を見渡し、勢いよくバッと俺に抱きついてきた。


「珍しいな、モモちゃんが甘えてくるなんて」

「だって……死ぬかもって思ったもん」

「ごめんな。俺がもっと早くあいつらの計画に気づけてたら良かったんだけど」

「おにぃは悪くないよ。悪いのは騙してたギミーなんだから」


 そう言ってモモちゃんはギミーの死体へと視線を移す。


「……ぶん殴ってやろうって思ってたけど、死んじゃったんだね」

「ああ」

「うえっ……良かった……モモちゃん無事で良かった」


 涙を流しながらモモちゃんに抱きつく義母さん。

 泣いている義母さんに呆れるモモちゃんではあるが、嫌な顔は一切していない。

 本気で心配してくれている義母さんの気持ちがよく分かっているのだろう。

 さらに義姉ちゃんまでもモモちゃんに抱きつき、酒場の広い空間で、狭く温かく一か所に家族で固まっていた。


 俺は家族の温かみを感じながら、一度皆から離れる。

 そして聖剣を手に取り、空間の中へ放り込む。


「元はと言うと俺が見つけた物をガライに貸してたんだ。返してもらうぜ」

「あ、この男の人、何でその剣を使えなくなってたの?」

 

 デーモンドが聖剣の力を使えなくなっていたことを思い出し、義母さんがそう俺に聞いてきた。


「レベル6のバトルマギ……これを扱うには、ある程度の力が必要なんだよ。デーモンドはこれは扱えるぐらい強かったみたいだけど、俺が『力の扉』を閉じたことによって、扱えるレベル以下になったんだろうな」

「ああ、なるほど」

「ほんと凄いよね、おにぃの技能」

「ああ。皆を守れるんだからありがたい限りだ」


 話を終えると、その後は皆黙ったままで、俺も静かにデーモンドとギミーの遺体を見下ろしていた。

 すると入り口からドドドッと勢いよく、国の兵士たちが駆けこんで来る姿が目に入る。


「え、何? 何なの?」

「私たち……襲われただけなのにぃ」


 兵士たちに囲まれ戸惑うモモちゃんたち。

 義母さんが大泣きし、兵士たちが耳を塞ぐ。


「な、なんだこの音は!?」

「う、うるさいから黙れ!」


 抱き合う家族たちは、何事かと質問を投げかけるような視線を俺に向けていた。

 俺は苦笑いしながら皆に言う。


「俺たちを捕えに来たんだよ」

「な、何で?」

「人を殺したからだろうな」

「え……えええっ?」


 驚愕する三人。

 俺は手を挙げ、兵士たちに向かって口を開く。


「俺がこの男を殺したんだ。女はこの男に殺された。そして俺の家族は誰も殺しちゃいない」


 その言葉を聞いた兵士たちは、ゆっくり俺に近づいてきて手枷をかける。

 縄でできたその手枷は魔力を封じる物で、これをかけられると技能を発動できないようだ。

 試しに【鍵】で手枷を開けようとしたが、うんともすんとも言わなかった。


「ムウちゃん!」

「大丈夫。殺されやしないから」


 連行させる俺を見つめる三人。

 そのまま俺は、城まで連れて行かれることとなった。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 連行された先はなんと玉座の間で、俺の目の前には聖王が鎮座していた。

 聖王の左右には、彼を守るように四聖が立ち並んでいる。

 四聖は全員兜をかぶっているので表情は伺えないが……こちらをギロリと睨んでいるような気がした。


 四聖からは威圧的なオーラをひしひしと感じる。

 が、聖王からは穏やかで温かいものしか感じない。

 俺はそんな優しい眼差しをこちらに向ける聖王の話に耳を傾ける。


「デーモンド……ベルセルク・デッドのリーダーを殺害したようですね」

「家族が襲われたからな。致し方なくやったよ」

「貴様! 聖王様に向かって何て口の利き方を!」


 四聖の一人、赤い鎧に身に纏うアンジェラが声を荒げる。

 彼女は四聖唯一の女騎士。

 気難しそうではあるが、美しい声の持ち主だ。

 アンジェラはボッと熱気と怒りを含む炎の魔力を全身から放ち、こちらをさらに威圧してきた。


「アンジェラ」

「……はっ」


 聖王が手で彼女を制すると、炎を收めるアンジェラ。

 聖王は穏やかな声のまま続ける。


「デーモンドという男の噂や情報を調べさせてもらったが……どうやら彼はどうしようもない悪党だったようですね」

「実際俺の家族も、あいつの餌食になりそうだったんだ」

「…………」


 俺の言葉を聞き、聖王はスーッと涙を流した。

 え? 何で泣くんだよ?

 義母さんじゃあるまいし……


「家族が無事で何よりでしたね……被害者も多くいると話は聞いております。あのような悪人が世にのさばっていたとは……これまでそんな男の存在に気づけなかったのは、私の責任であります」

「聖王様! それは違いますぞ! この国における闇に気づけなかったのは我らの責! あなた様には何の責任もございません!」


 そう声を張り上げるのは土色の鎧を着た、四聖の一人、エドモンド。

 四人の中でもっとも大きな体躯をしており、背中には巨大な斧を背負っている。


「エドモンド……ありがとう。だけどあなたたちだけの責任ではありません。私にだって同じように責任があるのです」

「聖王様……」

「これを機に、国の人々がさらに健やかに平和に生きて行けるよう、より一層使命に命を燃やしてまいりましょう」

「「「「はっ!」」」」

「我らの使命は人間の平穏と安全を守ること。あなたは被害に遭っていた人たちの平穏を取り戻してくれた。礼を言いますよ、ムウ・マードリック」

「はっ?」

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