第23話 ムウVSデーモンド①

「何だって……」


 全身の産毛が逆立つのを感じる。

 怒りにも近い感情が胸を支配し、俺は思考するよりも迅く、空間の扉を開く。


 目の前には義母さんたちに襲い掛かろうとしているデーモンドの姿が見えた。


「デーモンド!!」


 俺は空間の穴を通り抜け、全速力でデーモンドの下まで駆け抜ける。

 デーモンドは俺の動きに反応を示し、その右手にある炎の剣を振るった。


 俺はスライディングでそれを避け、相手の懐にまで入り込む。

 そして奴の『力の扉』を閉じ、怒涛の勢いで腹部に拳を何発もお見舞いした。


「ぐはっ!?」


 吹き飛び地面を滑るデーモンド。

 俺は犬歯をむき出しにして倒れている奴の体を睨み付ける。


「ムウちゃん!!」


 義母さんと義姉ちゃんが涙を浮かべて俺に抱きついてくる。

 震える二人の体を抱き寄せ、モモちゃんの姿がないことに気づき周囲を見渡した。



「モモちゃんは!?」

「あ、あっちで気絶してるの!」


 ダバダバ涙を流して義母さんは俺にそう教えてくれた。

 急いでモモちゃんの下まで移動し、気絶する彼女の体を抱きかかえる。


「モモちゃん! モモちゃん!」

「う……ん」


 意識は無いけどどうやら無事のようだ。

 俺はホッとため息をつくと同時に激しい怒りに思考が支配される。


 モモちゃんの『回復の扉』を開き、再度デーモンドを睨み、奴に近づく。


「デーモンド! 俺の家族に何しやがる!」

「う……ムウ!?」


 俺の顔を見てサッと起き上がるデーモンド。

 そこでギミーが蒼い顔で奴の背後に回るのが視界に入る。


「ギミー……どういうことだ!!」

「そ、それは……」

 

 口の中でもごもご言い、ハッキリと言葉を発しないギミー。

 俺の腕に手を回したままの義母さんが涙声で言う。


「あの子、悪い子だったの! 私たちを騙してたみたいなの!」

「ギミー……俺たちに嘘をついてたのかよ!」

「う……うるさい! 騙される方が悪いのよ!」

「騙す方が悪いに決まってるだろ! 義母さんは俺たちに嘘をつくなと教えてくれた。口から吐き出したものは全て真実でなければいけないと! そうすれば皆から信用されるってな!」

「…………」


 俺の怒声に怯えるギミー。

 デーモンドは俺の言葉に対して醜悪な笑みをこぼしていた。


「俺は両親をこの手で殺した。その身を犠牲に暴力こそ正義だと教えてもらったんだ。人を騙そうが殺そうが、最後に上に立っていた者こそが正義なんだよ」

「暴力のどこが正義だよ。お前の仲間たちも後ろにいるギミーも怯えてばかりいるじゃないか。正義ってのは、正しい道ってことだろ。他人が泣くような道のどこが正義だ!」

「ムウちゃん……偉い!」

「おう!」

「げひひひっ。マザコンかよ」


 俺と義母さんのやりとりを見てまた笑うデーモンド。

 カチンときた俺は、感情を露わにして奴を睨む。


「親不孝より一億倍はましだ!」

「いいや。親殺しの方がましだ。お前の価値観でものを語るんじゃない」

「俺とお前じゃ全く価値観が合わないみたいだな。だから一つだけ言っておくぞ。俺の家族に手を出すのなら俺は容赦はしない! 俺は家族を守るためなら手段を択ばないことにしている。いいか。これ以上モモちゃんたちに手を出すのなら、あの世に行くことになるぞ」

「げひひひっ……あの世に行くのはどっちだと思う?」


 暗い表情で笑うデーモンド。

 聖剣を構え、勝利を確信したような目で俺を見据えている。


「さっきは不意打ちでやられたみたいだが……正々堂々と勝負したらお前相手には負けないぞ」

「そりゃこっちのセリフだ。俺は絶対に負けない。特に暴力を正義だなんて言ってるような奴には、死んでも負けねえよ」


 暗く光るデーモンドの瞳。


 来る――


 そう思った瞬間にはデーモンドは駆け出していた。

 俺は義母さんと義姉ちゃんから手を離し、一歩前に出る。


 短剣を構え、奴が接近するのを待った。

 

「!?」


 ここでデーモンドはようやく自身の異変に気付いたようだ。

 聖剣から立ち上がっていたはずの炎が――消えている。


 一瞬驚いた様子を見せたが、デーモンドは瞬時にそのまま俺に斬りかかることを決断したのか、勢いそのまま走っていた。

 だがここでまた異変に気付くデーモンド。

 走る速度が遅い。

 平常時の奴の速度は知らないが、奴には分かっているようだった。

 あからさまに足に力が乗っていない。

 そんな表情を浮かべてこちらに向かって来ている。


 俺はただじっと奴がこちらに到着するのを待ち構え――

 最接近した瞬間に短剣を振り下ろす。


 動きは見え見えだ。

 『力の扉』を開いた俺から見れば、止まっているような速度だった。

 俺は激しい感情のままにデーモンドの左手首に短剣を通し、奴の腕と手首を切断する。


「ぎゃああああああ!!」


 コロコロと転がるデーモンドの左手首。

 奴はその場に膝をつき、痛みと驚愕に満ちた瞳で俺を見上げた。


 俺は勝敗は決したと考え、短剣を腰の鞘に納める。


「言ったろ。絶対に負けないって」

「くそ……くそぉ!」


 焦りと怒りに満ちた表情。

 勝負は決まったが、まだ何かを企んでいる様子にも見える。

 

 俺は警戒を解くことなく、静かにデーモンドを見据えていた。

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