第10話 家族のステータス

 パチっと目を覚ますと、まだモモちゃんが怪訝そうな顔でこちらに視線を向けている。

 どうやら心の中では、時間が経過しないようだ。


「で、潜るって何のこと?」

「ムウちゃん……一人で川遊びしにいくつもりなの? そんなのズルい! 私も行きたい!」


 俺の前の席に着いている義母さんはまた涙を流し、そう俺に訴えかける。

 すると膝枕している義姉ちゃんも、「私も」なんて言いたげな目でこちらを見上げていた。

 やっぱ義姉ちゃんは美人だな、なんて思いながら俺は否定する。


「違う違う。川遊びじゃないって」

「じゃあ海にでも行くつもり!?」

「もう何回も泣かないでよ、ママ。多分、そう言うことじゃないんでしょ」

「ああ。実はな」


 俺は簡潔に自分の技能を説明する。

 家族の皆はそれで納得したらしく、ワクワクした目で俺に視線を集めていた。


「好きな場所に行けるわ、よく分かんない収納も使えるわ、おにぃ、ちょっと凄すぎじゃない?」

「まだまだ色んなことできそうだけどな」


 モモちゃんは嬉しそうに俺の方へと駆けてきて、俺の頭を抱き寄せた。


「うんうん。おにぃはできるいい子だ。後は私の旦那さんになれば完璧だね」


 義姉ちゃんがガバッと起き上がり、モモちゃんと俺を引き離すために間に無理矢理割り込もうとする。


「…………」

「え? 違うし。おにぃと結婚するのは私だし!」


 義姉ちゃんの言葉が聞こえたのか、モモちゃんは憤慨して反論する。


「ほら。そんなことで喧嘩すんなよ、二人とも。それより二人の能力見てみるから、並んでくれ」

「……はーい」


 二人は素直に俺に従い、俺の前に並ぶ。

 俺は【鍵】を発動し、二人の情報の扉を開く。


「『能力鑑定』」


 技能を使うと、モモちゃんの目の前に数字が浮かび上がって来る。


 LV 12

 HP 228 MP 60 STR 156 

 VIT 108 AGI 108 INT 78 

 LUC 102


「おおっ」

「え? 私の能力どんな感じ?」

「大したもんだよ。いきなりレベルが12だ」

「ふーん」


 あんまりピンと来ていないようだが、今朝までの俺のレベルは7だ。 

 それをたったの一日で超えてしまうとは……『成長の扉』の効果もモモちゃんも素晴らしい。

 それにSTR――力に関しては俺より上なんじゃないか?


「…………」


 俺がモモちゃんの能力値を見て感激していると、今度は義姉ちゃんが俺の服の袖をくいくいと引っ張り、自分の能力も早く見ろとでも言わんばかりの顔をした。

 俺はそんな義姉ちゃんの顔を見て、ほっこり笑顔を浮かべ『能力鑑定』を使用する。


 LV  9

 HP 81 MP 135 STR 54 

 VIT 54 AGI 63 INT 144 

 LUC 99


「おお。義姉ちゃんも結構すごいぞ」


 俺の褒め言葉を聞いた義姉ちゃんは、暗い顔を赤く染める。

 モモちゃんと比べてモンスターを倒した数は少なかったけど……それでもレベル9。

 その上INTが高い。

 【魔術師】である義姉ちゃんは、これからももっと強くなっていくな。


「ねえねえ、私はどうなの、ムウちゃん!?」


 期待に満ちた瞳で、義母さんがこちらを見ている。

 俺もまた胸を期待でいっぱいにして、義母さんのステータスを確認することにした。


 LV  7

 HP 49 MP 35 STR 28 

 VIT 28 AGI 28 INT 28 

 LUC 120


 よえー!

 なんだこの能力値は!?

 LUC以外のステータスが軒並み低い……

 いやしかし、LUCは高いな。

 そういや、昔っから義母さんは運が良かったっけ。


「ど、どうなの……もしかして、大したことなかったの?」


 また泣き出しそうな義母さん。

 俺は慌てて、とりあえずはそれを否定しておいた。


「そ、そんなことないぞ! ず、ずば抜けて高い能力もある……」


 俺は義母さんの言いつけで嘘がつけない。 

 そこで何とか嘘をつかない範囲で誤魔化しておいた。

 駄目か?


 と思ったが、義母さんはそれに気分をよくしたのか、照れたように笑い出す。


「わ、私そんなに凄いんだ」

「あ、ああ。俺らよりもある意味すごいぜ!」


 義母さんはその後も大変喜んでいたが、どうやら勘のいいモモちゃんにはバレていたらしく、こっそりと俺に耳打ちをしてくる。


「で、実際のとこどうなの?」

「運は高いけど、あとはダメダメだな」

「……そりゃ言えないね」


 ふーっと嘆息して、モモちゃんは肩を竦めた。

 そのまま晩御飯の用意に戻るモモちゃんを横目に、俺は自分のステータスを確認することにした。


 LV 15

 HP 225 MP 135 STR 150 

 VIT 127 AGI 150 INT 120 

 LUC 142


 うん。

 俺も俺で結構強くなってるじゃないか。

 というか、一日でこれなら上等だろう。


 これから冒険者として活動していったら、どれほど強くなるんだろ……

 俺は義姉ちゃんをまた膝枕しながらそんな喜びを抱いて、晩御飯が出てくるのを待っていた。

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