第9話 家族で初めての仕事
俺たち家族は、ビックマンティスを狩るために森へとやって来ていた。
包丁を右手でクルクル回しているモモちゃんに、少しビクビクしている義姉ちゃん。
義母さんは俺と手を繋いで、鼻歌を口ずさんでいる。
「モンスターを倒せば金が手に入る。さらに冒険者としてのランクも上がり、自身の実力まで上がる」
「数を倒せば倒すだけいいことがあるなんて、言うことないね」
モモちゃんはそう言うなり、近くにいるビックマンティスに向かって駆け出した。
既にモモちゃんの『力の扉』と『成長の扉』は開いており、その速度は中々のものだ。
包丁片手に駆けるモモちゃんは、すれ違いざまにビックマンティスを調理してしまう。
鎌と頭が地面にポトンと落ちて、身体が蒸発していく。
「流石モモちゃん。すごい包丁さばきだな」
「当然でしょ。ずっと私が家族のご飯作ってきたんだから」
得意げな表情で、さらにビックマンティスを倒してしまうモモちゃん。
モモちゃんの技能は
食材の良し悪し、そして鮮度が手に取るように分かるというものらしい。
それを使い続けることによって技能は進化したようで、どうすれば食材を簡単に切れるか、どうすれば効率よく調理できるかというのが分かるようになったようだ。
「モンスターも食材に似てる部分があるのかも。何となくだけど、切りやすい部分が分かるよ」
軽々とビックマンティスを切断しながらモモちゃんは言う。
我が義妹ながら、素晴らしい戦闘力、いや、調理技術だ。
義兄ちゃんは鼻が高いぜ。
「…………」
そんなモモちゃんの活躍を見ていた義姉ちゃんは、二本の杖を両手に持ちながら少し震えているようだった。
「どうしたんだよ、義姉ちゃん」
「…………」
暗い顔で俺を見上げる義姉ちゃん。
そういやこの人、怖がりだったよな。
今もモンスターを前にして硬直しているようだ。
「義姉ちゃん。怖かったらやめておいてもいいんだぞ」
「…………」
小さく首を横に振る義姉ちゃん。
俺たちと一緒に仕事がしたい。
俺たちと一緒にいたい。
そう考えてくれているんだと思う。
怯えながら杖を二本、前に突き出す。
左手の杖からは火。
右手の杖からは風が生まれる。
義姉ちゃんの技能は
どうやら、同時に魔術を発動できるという技能のようだ。
杖の持ち手辺りにはそれぞれ【火】と【風】のレベル1のバトルマギが埋め込めらえており、こうして魔術を同時に発動している。
風に乗った炎が、ビックマンティスに向かって飛翔していく。
義姉ちゃんの魔術を受けたビックマンティスは炎に包み込まれ、一瞬で黒焦げと化す。
ホッとため息をつく義姉ちゃん。
義母さんがうるうると涙をためながら頷いている。
「メルトちゃんもモモちゃんもこんなに戦えるなんて……お母さん……なんだか嬉しぃよぉ!」
また大泣きを始める義母さん。
その悲鳴じみた泣き声は数匹のモンスターの耳を直撃し、ビックマンティスは痙攣を起こして倒れていく。
「「「…………」」」
俺たちは義母さんの泣き顔を唖然として見つめていた。
義母さんの技能は
家の窓にヒビが入ったり、こうしてモンスターを泣き声で倒してしまうのは、進化したからであろう。
昔はうるさいだけだったけど、いつからか窓にヒビが入り出したから、成長をしていたのだと推測する。
とんだ迷惑ではあるけれど、モンスター相手なら役立つ技能と言える。かな?
「不思議だけど、私たちには何の影響もないよね、ママの泣き声」
「そういやそうだよね」
「あれよ、あれ。お母さんの愛がムウちゃんたちを守ってるんだよ」
照れながらそんなことを言う義母さん。
愛情深い人ではあるが……関係あるか、それ?
まぁしかし。
こうして戦ってみると、案外皆しっかり戦えるものなのだな。
俺の技能のおかげではあるだろうけど……このままいけば凄いことになるんじゃないか?
俺は胸を高鳴らせながら、家族の顔を見つめる。
可愛さとそれぞれ違う強さを秘めた瞳。
その後将来の自分たちの姿を思い浮かべながら、俺たちは揚々と敵を倒していった。
◇◇◇◇◇◇◇
「で、どれぐらい私ら強くなったの?」
一日狩りをして、自宅に戻った夜。
モモちゃんは晩御飯の支度をしながら俺にそう訊ねてきた。
『成長の扉』のこともあるし、そこそこ強くなったとは思うのだが……
それを確認する術が無い。
義姉ちゃんを膝枕しながら俺は思案する。
「あ」
「どうしたの?」
「ちょっと潜ってくるよ」
「はぁ?」
包丁片手に振り返りながらモモちゃんは怪訝そうな顔をする。
俺は目を閉じ、『心の扉』を開く。
◆◆◆◆◆◆◆
【鍵】の玉を前に俺は心の中で欲しい能力をイメージする。
扉を開いて他人のステータスを確認する技能……
それを【
『技能を拡張するためにはスキルポイント1万必要になりますがよろしいですか?』
「もちろんいいぜ」
頭の中に響く声に簡単に応える。
すると新しい技能、『能力鑑定』を創造することに成功していた。
これはなんでもありだな……
俺は全身に喜びを感じながらその場を後にし、自宅へと意識を戻すのであった。
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