第11話 換金
ビックマンティスの狩りをした次の日、俺たちは再度冒険者ギルドへと赴いていた。
相変わらず行列が出来上がっており、俺たちはハンナのいる列へと並んだ。
「あ、ムウ。おはよう」
「おう、おはようハンナ!」
俺が元気一杯に挨拶をすると、モジモジしながら髪をいじりだすハンナ。
「ちょっとだけいつもより可愛く巻けたと思うんだけど……どうかな?」
「別に、いたって普通じゃない?」
「あんたには聞いてないわよ」
モモちゃんとハンナは歯をむき出しにして睨み合う。
義姉ちゃんも何やらそれに参加したいとでも言わんばかりに、二人に近づいたり離れたりしている。
「まぁハンナはいつも可愛いと思うぞ。そんなことより納品を頼むよ」
「そ、そんなことって……喜んでいいのかどうか微妙だな」
ハンナは微妙な顔をしていたがコホンと一つ咳払いをして、仕事モードの表情に戻る。
俺は倉庫の扉を開き、魔石を取り出す。
「ちょ……それどうなってるの?」
「さぁ? 俺にも分かんねえ」
「ムウちゃんは何でもできるんだね……お母さん、お母さん嬉しくて泣いちゃうかも~」
「泣いちゃうって、ママもう泣いちゃっているし!?」
涙を流す義母さんを胸に抱きながら魔石を全てカウンターへと置く。
その数80。
「こ、こんなに魔石を……皆Fランクだよね?」
「期待の新人っってとこだな」
それを聞いたモモちゃんは胸を張る。
「胸のサイズは期待できないけどね」
「む、胸のサイズは関係ないし。胸のサイズはママが担当してるからいいの!」
「ママって小さいお子さんにしか見えな……ってデカッ!」
義母さんの背が小さいから胸に目がいっていなかったようだが、その凶悪な胸のサイズに目を点にさせているハンナ。
「それより納品と新しい仕事を頼むよ」
「あ、うん……」
ハンナは少し自信を無くしたような表情で仕事の話に戻る。
「お金はこれね。で、仕事は……こんなのどうかしら? Fランクだけど、Dランクぐらいの仕事できそうだしこれぐらいで丁度いいんじゃない?」
この世界の通貨はゼルと言って、ビックマンティスの魔石一つ100ゼルを貰えるので、今回入手した金は……
「9000ゼルかな」
「8000だよ、おにぃ」
計算を間違えた俺の肩をポンと叩きながらモモちゃんが訂正する。
8000ゼル……結構いい稼ぎになったな。
定食なら8回は食べれるほどの額。
この調子なら食うには全く困らないだろう。
それにこれからランクも上がれば、それはなおのことだ。
新しくハンナが提案してくれた仕事は……ワイルドゴブリンの討伐。
「うん。これにするか。さすがハンナだ。いい仕事してるよ」
「でしょ? ってことで今度デートしない?」
「するわけないじゃん。おにぃは毎日私とデートしてるようなものなんだから」
義姉ちゃんが自分を指差してモモちゃんに無言の抗議をしようとしているが……気づかれていない。
「今は家族とやること多いから、また落ち着いたらな!」
「う、うん。待ってるね!」
俺はハンナに手を振り、ギルドを後にする。
するとモモちゃんはため息をつきながら俺の腕に手を回してきた。
「なんでデートの約束するかな?」
「ん? だって遊ぶだけだろ?」
「遊ぶだけって……」
「わ、私もムウちゃんとデートしたい……」
義母さんは歩きながら、うるうるした瞳で俺を見上げてくる。
「ああ! 今度デートしようぜ、義母さん」
俺がそう言うと、義母さんはわいわい飛び跳ね、大いに喜んでくれる。
一緒に遊ぶだけでこんなに喜ぶなんて、本当、義母さんは子供みたいだな。
「それで、これからどこに行くの?」
「昨日行った森の奥に、ワイルドゴブリンってモンスターが出現してるらしくてな。それを退治しに行くんだよ」
「ワイルドゴブリン……どれぐらい強いの?」
「うーん……分かんねえ」
「わ、分からないのに引き受けたの?」
「ハンナが提案してくれたんだ。間違いなく俺らに倒せるって踏んでこの仕事をくれたんだよ」
複雑そうな顔をしてモモちゃんは続ける。
「結構有能なんだ、あの人」
「ああ。あのギルドの中では一番しっかりしてるよ。可愛いし仕事できるし、ファンも多いみたいだぞ」
「ふーん……ねえ、今度から別の人に頼まない?」
モモちゃんに同調するように義姉ちゃんがコクコクと首を縦に振っていた。
義母さんはいまだに歩きながら飛び跳ねている。
「なんでだよ? 別にハンナでいいだろ?」
「おにぃって色々鈍いからなぁ」
「ん? 何がだ?」
「何がって、今も意味が分かってないみたいだし、そのまんまの意味だよ」
モモちゃんと義姉ちゃんは腕を回している手の力を強める。
うーん、やっぱり分からないな。
何が鈍いんだろう。
呆れるモモちゃんと少し不安そうな義姉ちゃん。
それに嬉しさを爆発させている義母さん。
そんな三人と共に、俺はモモちゃんの言葉に頭を悩ませながら、町の外まで歩いて行った。
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