第3話 心の扉

「よっと」


 20匹目のビックマンティスを倒すと奴の体はズブズブと黒い煙を上げて消えていき、緑色の石だけがその場に残る。

 掌に乗る程度の石――【魔石】だ。

 この魔石は商店や冒険者ギルドと呼ばれる所へ持って行くと買い取ってもらえる。

 マギの元になったり武器の材料になったりなど、用途は多数あるので不要になることもない。

 それにモンスターを倒した時魔石は必ず残るので倒した証拠となり、モンスター討伐依頼などの仕事の場合もこれを納品するのが基本なのである。


「ふー」


 魔石を拾っている最中、少し疲労感を覚えた。

 【鍵】を使い続けるとどうしても精神力MPを消費してしまう。

 これは昔からの問題だし、そろそろ何とかしないとな。


 そして俺は別の問題で少々困っていた。

 魔石が手に入るのはいいのだが、荷物になりすぎる。

 手元にはすでに20個の魔石があり、小さな袋しか持ってきていないのでこれ以上は持つことができそうにもない。

 どうするかな……?


 俺は少し思案し、一度町に戻ることにした。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 パールバロンの町。

 この世界の中心にあると言われる大都市。

 とてつもなく大きな町で、石造りの建物、大賑わいを見せる店たち。

 中央には白をベースにした神聖なる城が聳えていた。

 あの城にはこの世界を守る、『聖王』と呼ばれる人がいる。

 『聖王』は3,000年ほど生きているという噂を聞いたことはあるが、真偽のほどは定かではない。

 だって3000年前から生存している人なんていないわけだし、それを事実だと証明するものは何もない。

 


 まぁ噂って嘘も多いし、今はそんなことはどうでもいいんだけど。 

 

 俺は魔石を商店で換金し、近くの木造の宿に入った。

 まだ昼過ぎではあるが、俺にはやらないといけないことがある。

 通された部屋のベッドに早速座り、大きく深呼吸をし、目を閉じる。


「開け、『心の扉マインドゲート』」


 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 ドボンッ! と水の中に落ちるような感覚。

 実際のところ、今俺の周囲は水に満ちていた。

 しかし体が濡れるようなことも息が詰まるようなこともない、不思議な場所。

 

 ここは俺の心の中で、【鍵】の技能で心の扉を開き、自身の内面へとダイブできるようになっていた。

 体はドンドン沈んで行き――一番深い所へと到着する。

 目の前には扉が三つあり、赤い扉、青い扉、黒い扉が存在していた。


 赤い扉は自分の精神へと繋がる扉で、青い扉は技能の扉だ。

 黒い扉は……開けてはならないような気がするのでまだ開いたこともない。


 俺は大きな青い扉を押し、中へと入っていく。

 中は真っ白な空間で、どれほど広いかは確認したこともない。

 すぐそこまでしか広がっていないかもしれないし、無限に広がっているようにも思える。

 ここは俺の技能関連の倉庫みたいな場所で、一つだけポツンと半透明の玉がプカプカと浮かんでいる。

 これは【鍵】の技能を内包している玉。

 この場所にこれだけが存在しているということは、俺の所持している技能はこれのみということだ。


 そしてここでは不思議なことに、自分のステータス値を確認することができる。


「ステータス」


 俺の目の前にいくつかの数字が浮かび上がってくる。


 LV  7

 HP 71 MP45 STR 55 

 VIT 40 AGI 58 INT 38 

 LUC 44


 今日、ビックマンティスを倒したからだろうか。

 能力値が以前より上昇している。

 しかし、こんな物を見ることができるなんて便利だな。

 どれぐらい強くなったか数字で確認できるんだから、強さを実感しやすい。

 俺は胸を高鳴らせながら、プカプカ浮いている【鍵】の玉の方へと歩いて行く。


 玉は人の頭よりも大きい物で、俺の視線の高さほどに浮いている。

 それに右手で触れると、玉の上に【鍵】の情報が映し出された。


 鍵:熟練度114514 SPスキルポイント114514

 開閉 力の扉 心の扉


 今俺が使える【鍵】の技能は、俺が扉と認識している物を開くことができる【開閉】と【力の扉】に【心の扉】。


 そして俺がここに潜ってきた目的はというと――

 技能を変化させるためだ。


 ここでできることは大きく分けて三つある。


 一つ目は【技能解放オープナー】。

 【鍵】以外の能力の才覚を目覚めさせること。


 二つ目は【技能進化スキルアッパー】。

 【鍵】を使い続けたことによって【力の扉】と【心の扉】が使用できるように進化した。

 その進化を強制的にさせることができるのが【能力進化】だ。


 最後の三つめは【技能創造クリエイション】。

 その名の通り、技能を創造することができる。


 基本的に技能は一人一つということになっているのだが、ここに来て分かったことがある。

 それは【技能解放】を使用しなくても、人は別の技能を習得できるということ。

 ただ残酷なまでに花が開くのが遅いというだけであって、やってやれないことはない。

 【技能解放】はその残酷な時間を0にしてはくれるのだが……俺から見たら、効率が悪そうだという印象しかない。

 あくまでできるのは才覚の目覚めだ。

 そこからまた熟練度を上げていかなければならないので、一からやり直しということだろ?

 生まれてきてから【鍵】を使い続けてきた時間のことを考えたら、とてもじゃないがもう一つの能力を育てる自信なんてない。

 

 だから【技能解放】を習得するのは止めておこうと考えている。

 今回の目的は、と言うか、これからの目的はあくまで【鍵】の成長。


 とりあえずは【技能進化】だ。


「【技能進化】」


 そう言葉にすると、突然頭の中に女性の声が響き出す。


『スキルポイントを1000消費しますがよろしいですか?』


 以前、ここに潜った時にも聞こえてきた声。

 技能関連の情報などを教えてくれたのも彼女だ。

 しかし周囲を見渡しても彼女の姿はどこにもない。

 脳内に直接声が聞こえてくるという不思議な感じではあるが、ここではこんなものなのだろうか? と考えあまり深く追求することはやめた。

 細かいことはいいだろう。


 とにかくスキルポイントが必要、と。

 現在のスキルポイントは114514――熟練度の数だけあるな。

 これは1000ぐらい消費しても問題ないだろう。


「構わない。頼む」

『では【技能進化】を開始します』


 ポッと淡い光を放つ玉。

 すると映し出されている文字に変化が起こる。


 鍵:熟練度114514 SPスキルポイント113514

 開閉 力の扉 心の扉 成長の扉


「【成長の扉グロウスゲート】……どんな効果だ?」


 【成長の扉】の文字に指先で触れてみると、技能の情報が表示される。


 成長の扉:自身、あるいは他人の成長率を増進させる扉を開くことができる


 なるほど。通常よりも成長しやすくなる能力と言うわけか。

 凄いな!


 新しい能力に心の高ぶりを禁じえない。

 俺はワクワクした気分で次の工程に進むことにした。


「次は……【技能創造】だ」

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