第2話 【鍵】
ガライたちのパーティーを抜けた次の日の朝。
俺は首都パールバロンを出て近くの森へとやって来ていた。
多くの木々が生えており、緑の香りが鼻孔に飛び込んでくる。
そこに出現するモンスター、ビックマンティス。
その名の通り、大きなカマキリの姿をしたモンスターだ。
俺の胸辺りまである身長。
鎌状の前足をこちらに向けて威嚇してきていた。
パーティーをクビになったことにより、自力でこれからの生活費を稼がなければならない。
そのためにこの森へモンスターと戦いに来ているというわけだ。
俺はビックマンティスと対峙しながら自身の
「!?」
常人離れした俺の速度にビックマンティスは反応できないでいた。
俺はバッと飛び上がり、奴の頭に短剣を突き刺す。
その一撃で全身から力が抜け落ち、ビックマンティスは絶命する。
「よし。十分勝てるな」
俺は自身の手を見下ろしながら笑みをこぼす。
俺は生まれた時から【鍵】の技能を所持していた。
鍵穴に手を触れるとポッと小さな光が灯り、鍵を開けることができたのだ。
最初はその技能を使い、自宅の鍵を開けていたのだが……そのうちこの技能に病的にはまってしまい、色んな家の鍵を開け回るという何とも迷惑極まりないことをやっていた。
子供の頃の話だから許してね。
技能には熟練度という物が存在しているようで、最初は鍵を『開ける』ということしか出来なかったのだが、【鍵】を使い続けることによっていつしか鍵を『閉める』ということもできるようになった。
熟練度を高めることによって能力が進化するのだ。
それからは自分の家や他人の家の鍵を開け閉めしながら毎日を過ごしていた。
友達と遊んだりするよりも鍵を開ける方が楽しかったのだ。
そんなことを子供の頃から続けていたのものだから、【鍵】の技能はさらなる進化を遂げることになる。
本来は特殊な鍵の開け閉めぐらいが限界だと言われていたこの能力。
しかしまだ先があったのだ。
それは自分の中にある『
『力の扉』を開けることによって、超人めいた力を発揮することができるのだ。
今使用した技能も『力の扉』の解放。
するともう一匹、ビックマンティスが出現する。
このモンスターは一般男性では歯が立たないほど強いらしいが、『力の扉』を開いた俺なら問題なく勝てることが今判明した。
今までガライたちのサポートに徹していたので、あまり自身の力を試すようなことはなかったが、十分強いじゃん。
俺は喜びを胸に、ビックマンティスに向かって右手を伸ばす。
自身の『力の扉』を開けることになっても【鍵】を使用し続けた結果、技能はさらに進化を遂げた。
「閉じろ、力の扉よ」
それは他人の『力の扉』の開閉が可能になるというものだった。
ビックマンティスの『力の扉』を強制的に閉じてやる。
相手の動きは緩慢なものになり、弱々しい鎌をこちらに振り下ろしてきた。
だがそれは俺の胸に触れるだけで、効果は一切ない。
『力の扉』を開いた者と閉じた者。
その力の差は歴然としており、もう俺が負ける要素はゼロである。
軽く短剣を振ると、重々しい頭部が地面に落ちた。
この能力の有効範囲は相手の強さによって違う。
ビックマンティスは正直そこまで強いモンスターではないので、100メートルぐらい離れていたとしてもその扉を閉じることが可能だ。
ガライたちと強いモンスターと対峙したことが何度もあるが――今までで一番接近しないと発動しなかった距離は1メートルというのがある。
あれは1級モンスターと呼ばれる『炎の騎士』が相手であった。
ちなみにビックマンティスは3級モンスターと呼ばれる、最底辺レベルのモンスター。
『炎の騎士』を相手にした時。
ガライたちだけでは勝てない相手のようだったので、自分の『力の扉』を開き、接近して相手の弱体化を試みたのだ。
結果として相手の力を削ぐことができ、俺たちは勝利を収めるとこができた。
とまぁ、この距離も日を追うごとに伸びてきているので、まだ成長途中だったりするのだが。
とにかく敵にもよるが、強さによって距離がまちまちなので、逆に言えば遠くからこの能力がかかるような敵相手なら余裕で勝てるというわけだ。
そこからもビックマンティスの『力の扉』を閉じながら戦っていく。
別に相手の力を閉じなくても楽勝ではあるのだが、やはり目の前に扉があれば開け閉めしなくては気が済まない。
実は鍵の開閉にはまだ病的にはまっていたりする。
技能は使えば使うだけ熟練度が上昇するので無駄にはならないからいいだろう。
ビックマンティスを18匹狩った辺りで、俺は短剣に視線を落とす。
これは義母が購入してくれた短剣だ。
銀色の刀身に柄の部分には白色のマギが埋め込まれている。
貧乏な母親が買ってくれたものだ。
残念ながらこのマギには何の効力も、力も、意味もない。
白色のマギはゴミと認定されているもので、見た目だけのためにこうして安物の武器に備えられている、いわゆる飾りなのだ。
だが俺は義母が無い金をはたいてくれて買ってくれたこれを大変気に入っている。
そして左手首には義姉が作ってくれた骸骨のブレスレット。
禍々しいオーラが滲み出ているような気もするが、気にしない。
義妹が買ってくれた赤い服を腰に巻いており、離れていても家族の愛をなんとなく近くに感じる。
俺は一人ではないのだ。
そんなことを考えながら、ビックマンティスの狩りを再開させた。
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