「鍵しか開けられないお荷物は出ていけ!!」と追い出されたのだがいいのだろうか?【鍵師】である俺のおかげでSランクとして成り立っていたのに。俺は義母姉妹と共に世界最強のパーティーを作るから関係ないが。

大田 明

第1話 ムウ

「なあムウ。これが何か分かるか?」

「コードマギだな」


 町の酒場で、ナメクジのように粘っこい笑みをこちらに向けるガライ。

 ガライは金色の長髪を後ろで束ね、全身に銀色の鎧を纏い、腰には大層な装飾を施された鞘に納めた剣がある。

 年齢は22歳。

 若く、そして将来有望の冒険者である。

 

 彼が手に持っている丸い形をした宝石のような物――【コードマギ】。

 【マギ】とは、モンスターから入手できる【魔石】というものがあり、これを加工することによって様々な力を使えるというアイテムのことである。

 戦闘で使えるマギを【バトルマギ】。

 それ以外の、例えば生活水を出したり、モンスターから身を守るための結界を張ったりなどの力を使うことができるマギのことを【コードマギ】と言う。


 ガライの銀色の鎧の胸当たりにも【バトルマギ】が埋め込まれており、それがキラリと怪しく光る。

 テーブルを挟んで俺の向かい側に座っているガライ。

 そして左に赤髪を肩まで伸ばした美女、ギミー。

 右手には坊主頭で背の低い猿のような顔をしたグレスがいる。

 二人はガライのように不愉快な笑みをこちらに向けながら酒を口に含んでいた。


「このコードマギの効果、知ってるか?」

「さあ? 聞いてたら分かるだろうけど、聞いた記憶もないよ」


 俺はテーブルの上にある焼かれた鶏肉を齧り、それを水で流し込む。


「聞いた記憶がない? そりゃ初めて話するんだからそうだろうな」

「そりゃ分かるわけないな」


 ハハハッとお互いに顔を合わせて笑う俺たち。

 ガライは笑いながら続ける。


「これは、どんな鍵でも開けることができる【魔法の鍵】の効果を内包したコードマギだ」

「ふーん」

「それでだ……お前の技能スキルは何だったかな?」

「俺? 忘れたのかよ。【キー】だよ」


 技能スキル――。

 それは先天的に、あるいは後天的に発現する、人間に与えられた特殊能力だ。

 これは俗説では基本的・・・に一人一つ与えられると言われており、その技能によって、それぞれ【ジョブ】を選ぶというのがこの世の常識。

 俺は扉などの鍵を開け閉めすることができる【鍵】。

 その鍵を生かすジョブということで【鍵師】を選択している。


 ジョブとはその人が得意とする分野を相手に一言で理解させるために付けられているもので、別に俺が【戦士】や【魔術師】なんかを名乗ってもいい。

 だがそれを名乗るということは、やはりそれなりに戦士として戦う力や魔術師としての魔力がなければいけない。

 戦士を募集して力が無いなんて話にならないし、魔術師を頼りにして接近戦が得意ですなんて混乱を招くだけであろう。

 なので自分がどういうことが得意で不得意なのかを言い表すためにジョブは適切なものを選ばなければならない。


 俺の場合は【鍵師】。

 鍵を開けるのが専門で、それ以上でもそれ以下でもない。


「分かってるよ。【鍵】のスキルを持った【鍵師】……鍵を開けるのが専門なんだよなぁ?」


 片頬を歪ませに歪ませ、ガライは俺を見下すように顔を上げる。

 俺はさすがにガライの態度にイラッとし、食べていた鶏肉を皿に戻した。


「何が言いたいんだよ?」

「まだ話が分かんねえのかよ、このアホ! ガライはお前がいらないって言ってるんだよ」


 キキキッと猿みたいに笑いながらグレスがそう言う。

 こいつは猿みたいだと普段から思っているが、笑うと余計に猿みたいだな。

 いや、もう完全に猿だ。

 猿がテーブルの前で笑っている。


「ちょっとグレス。ガライがいらないなんて言うのはちょっと違うんじゃないかしら?」


 ギミーがぐいっと酒を飲み干しながら続ける。


「いらないって言ってるのは私とあなたも含めて、皆の意見でしょ?」

「確かにそうだった!」


 ゲラゲラ笑うガライたち。


「俺たちはこの【魔法の鍵】を手に入れた……となれば、鍵開けが専門の【鍵師】であるムウ。お前はお払い箱ってわけだ」

「なるほどな」

「お前を含めば四等分の報酬が、三等分で分けられるようになる。俺たちはSランクの冒険者だ。その差はデカいと思わないか?」

「デカいだろうな。それはよく分かるよ」

「だろ? だからさ……鍵しか開けられないお荷物は出ていけ!!」


 ドッと沸く三人。

 俺は少々怒りを覚えつつも、スーッと頭が急速に冷えていく感覚も同時に得ていた。


「あのさ、別に出て行ってもいいけど――」

「もう何を言っても遅いんだよ! お前は鍵開け以外に能がない! 俺たちのパーティーには不必要な人間なんだよ!」

「……そっか。分かった」


 大笑いする三人の前で、俺は鶏肉を食べるのを再開させる。


「な、何やってんだよ。出ていかねえのか?」

「出て行くよ。だけど、食べ残しはしたくないんだよ。食べ残ししたら、義妹ちゃんに怒られるからな」

「「「…………」」」


 三人は微妙な顔で俺が鶏肉を食べるのを黙って見ていた。

 そして俺は鶏肉を食べ終え水を飲み、席を立って酒場を出る。


「じゃあな。もう手を貸すことはないけど、達者でな!」

「借りるわけねえだろ、このバカ!」


 俺が笑顔でそう言うと、さらに笑うガライたち。

 飯代は払ってないけど、退職金代わりでこれぐらいいよな?

 そしてこれからのこいつらの未来を想像し、苦笑いをしながら俺はその場を去った。

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