第3章 VS白桃女子高校

第252話 乃愛の不満①

岡山県大会準々決勝、白桃女子高校のベンチ内から、桜風学園のベンチ前でキャッチボールをしている雲ヶ丘凄美恋のことを伊集院乃愛のあが見つめていた。


「やはり先発は雲ヶ丘さんだったわね」


雲ヶ丘凄美恋が先発投手としてマウンドに上がるという予想を的中させた乃愛に驚くチームメイトとは対照的に、当の乃愛は優雅に微笑んでいた。


「ミーティングのときに雲ヶ丘さんの先発を乃愛さんが予想した時には、発言相手が乃愛さんじゃなかったら信じないところでした……」


困惑した調子で伝える後輩の顔を見て、乃愛は相変わらずの余裕綽々の笑みを浮かべていた。


「ええ、まだ万全ではない湊さんをどこかで休ませるために、うちみたいな弱小校はうってつけだもの」


「でも、雲ヶ丘さんって夏に皐月女子相手に大炎上していますし、その後もほとんど投手としての情報は入ってなかったから、てっきりもう投手はやめたのかと思っていました……」


「簡単なことよ。学校数が24校しかないから試合数は少ないとはいえ、3位以内に入り、中国地区大会に出場するためには、計5試合で最低でも35イニング分投手は投げなければならない。そうなってくると、いくら湊さんとは言え、ブランクのある状態では一人の投手の力だけでは当然勝ち上がれない。もう一人誰か投げさせないといけないとなったときに誰が投げるか。たとえ湊さんに比べて実力が大幅に落ちるとしても、消去法的に雲ヶ丘さんを使わざるを得ない」


乃愛は視線の先で投球練習をしている雲ヶ丘凄美恋の球筋を見つめながら話していた。夏に見た時とは比べ物にならないくらい良くなっていて、ほんの少しだけ驚いてしまっていた。きっと夏から秋にかけてかなり練習を積んだに違いない。


だが、投球の向上は短期間でそれなりにできても、メンタルを鍛えるのはそんなに簡単な話ではない。夏は明らかに精神的な部分から崩れた結果の大炎上だったし、この試合も乃愛なら雲ヶ丘凄美恋を崩せる自信があった。


そんなことを考えつつ、乃愛は冷静に話を続ける。


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