第251話 店内での喧嘩は厳禁です⑨
2人だけになり、千早が不安そうに横に座る華菜の横顔を見つめながら言う。
「ねえ、華菜ちゃん、大丈夫なの? 凄美恋ちゃんわざとピッチャーやめるために打たれたりしないかな?」
「ふふっ、大丈夫よ。凄美恋は勝利への思いは人一倍強いから投げたいのにマウンドに立つことを拒むような子なんだから。明日は誰よりも強い気持ちで、チームを勝たせるために投げてくれると思うわ」
華菜が微笑んだのを見て、千早の表情も緩んだ。
「そっか、それなら安心だね!」
「それに、凄美恋がわざと打たれるようなことがあっても、わたしたちで守って2失点以内に抑えさせて、絶対にマウンドから降りられないようにすればいいわ」
華菜が笑顔で言うのを聞いて、千早が「うん」と小さな声で頷いた。
「それにしても……」
華菜が机の上に置いてある3枚の1000円札に目をやった。由里香が2枚、凄美恋が1枚会計用に置いていったけど、ファミレスでコーヒー2杯とカルボナーラを頼んだだけでは絶対にこんなにもお金はかからない。
「明日返しておかないといけないわね……」
華菜が千早と共に店を出たくらいの時間に、ピロン、とスマホのSNSアプリにメッセージが入ったことを知らせる音がした。
「何かしら?」
由里香『ごめん、ちょっと凄美恋には言い過ぎたわ。悪いけど華菜からフォロー入れといてくれるかしら』
メッセージを見て華菜が苦笑した。
「もうちょっと早く言ってくれないと……。もう凄美恋帰っちゃってるわよ」
千早が不思議そうに「どうしたの?」と尋ねてくるから、華菜は「なんでもないわよ」と呆れ口調で答えながら、スマホに指を乗せた。
華菜『自分でなんとかしてください!』
ウサギのキャラクターがぷんすか怒っているスタンプも添えて送ると、由里香からリスのキャラクターがガーン、とショックを表しているスタンプを送って来た。
(とりあえず、由里香さんも凄美恋もお互いに本気で怒っているわけじゃなさそうでよかったわ)
ホッとした表情でチラリと横を歩く千早の方を見ると、不安そうに千早が尋ねてきた。
「明日、勝てるかな?」
「勝つのよ。本気の凄美恋はきっと凄いから大丈夫よ」
華菜がそっと千早の手を握ると、強張っていた表情が一気に緩む。
「千早も頑張って打つね!」
「ええ、わたしたちも頑張りましょう!」
綺麗に澄んだ初秋の星空の元、華菜と千早はのんびりと手を繋ぎながら家に帰るのだった。
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