第248話 店内での喧嘩は厳禁です⑥

「ああ、もう! ……ほんま面目ないわ」


凄美恋が頭を抱えた。


「まあ、とりあえず、明日由里香さんに謝りなさい。そしたら由里香さんも許してくれると思うし」


「由里香が謝ったらうちも謝るわ」


「ちょっと、変な意地張ってないで先に謝りなさいよ……」


「それはちょっと無理やわ。うちも、譲られへんことはあんねん」


凄美恋が打って変わって凛とした表情で華菜の方を見る。これ以上説得しても無駄だろうし、気になることを聞いてみた。


「ねえ、凄美恋は本心からマウンドが嫌いなの?」


「そんなわけないやろ」


返答はノータイムだった。静かだけど、少し強めの語彙で凄美恋は言い切った。


「マウンドにはそりゃ、ほんとは立ちたいよ。けど、うちにはそんな資格ないねん」


「資格がないって……。みんな凄美恋にピッチャーをやってほしがっているし、凄美恋はマウンドに立ちたい。なんの問題もなく話は解決じゃないの?」


「それで解決できるんならうちはこんなに悩んでへんわ」


投げやりに凄美恋が言う。先ほどから、口に運ぶつもりもないのにひたすらカルボナーラをフォークにぐるぐる巻きつけては、ほどいてを繰り返していた。


「それで解決できるんならって、何が問題なのよ?」


何度マウンドに立てと言っても立とうとしなかったのは凄美恋である。華菜は夏休み前から口が酸っぱくなるくらい何度も何度も言ってきたのだ。


「なあ、華菜。チームにとって大切なことはなんやと思う?」


「いきなり何の質問よ?」


「……うちは大切なことは勝つことやと思ってる」


華菜の疑問には答えずに、凄美恋は勝手に話を進めていく。


「そのためにはみんなで1つになるために、場合によっては、それぞれがチームの為に我慢することも必要になってくると思うねん」


「そうね」


華菜も別に間違ったことは言ってないと思った。適当に相槌を打っているのは、話がどこに帰結するのかが読めないからであり、凄美恋の話が理解できないからというわけではない。だけど、続きを聞いて、思わず華菜は目を丸くしてしまう。


「そういうわけで、うちはマウンドに立たないと心に決めてん」


「いや、なんでそうなるのよ!!」


思わず大きな声を出してしまい、周囲のお客さんの視線が再び集まってしまう。


「お客様、お店の中で大きな声出したらダメですよ」


また千早がやってきて、冗談交じりに笑いながら、口元に人差し指を当てながら注意をしてくる。


今はバイトの時間が終わっていたのか、桜風学園の制服姿に着替えていた。そのまま華菜の横に千早が座り、楽しそうに2人の会話を聞く姿勢を作る。


空気が重くなってしまっていたから、千早がやって来てくれて助かったと華菜は心の中で感謝しつつ、話を続ける。

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