第246話 店内での喧嘩は厳禁です④
「ちょっと、お客さんたち、静かにしてもらえますか? 他のお客様にご迷惑ですよ!」
初対面の客に使うには少し乱暴な口調で、馴染みのある声が聞こえてきた。由里香と凄美恋もよく知っている声の方向を見た。二人とも驚きで目を丸くし、殺気が一気に失われて行く。
凄美恋がすっかり毒気の抜けた声で、小柄でほんのり日に焼けた、ポニーテール姿の活発そうな店員さんに尋ねる。
「なんで千早がここにおんねん?」
お店の制服を着た千早が、ムッとした顔で凄美恋と由里香のことを見つめている。華菜一人ではとてもじゃないけど2人の喧嘩を止めることはできなさそうだったから、千早が来てくれて助かった。
「ここ、千早がバイトしてるファミレスなのよ」
華菜が呆れ声で2人の疑問に答えてから、小さな声で「ありがとう、助かったわ」と少しだけ腰を上げて千早の耳元で囁いた。
「……そう。うるさくしちゃってごめんなさい。わたしはこれで帰るから、どうぞごゆっくり」
華菜の言葉を聞いた由里香が、バツが悪そうに千早に謝ってから、1000円札を2枚机の上に叩きつけるように置いて、席を立った。
「あ、由里香さん、待ってください……!」
早歩きで店から出ようとする由里香の方を華菜は見る。だけど、由里香は歩を緩めることは無かった。
「あんたも一緒に行きや。あんたの大好きな“由里香さん”が行ってまうで」
嫌味っぽく言う凄美恋の言葉を聞いて、華菜はため息をついた。
「今のあんたのこと置いて、出ていけるわけないでしょ?」
華菜の視線の先には柄にもなく目を潤ませている凄美恋がいた。とてもじゃないけど、こんな状態の凄美恋を一人で店内においていくことはできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます