第245話 店内での喧嘩は厳禁です③
「どういう意味も何も、さっきあんたも言ってたでしょ? 才能ないって。あんたが投げたら勝手に四球連発して大炎上しちゃうってこと。そんな簡単なこともわからないなんて、凄美恋ってコントロールだけじゃなくて頭も悪いのかしら? ああ、そういえば赤点いっぱいとったって言ってたし、ほんとに頭悪かったんだっけ」
「由里香さん、それはちょっと言い過ぎじゃ……」
由里香がやれやれ、というようにため息をつきながら、砂糖もミルクも入っていないコーヒーを飲み干した。涼し気な由里香とは対象的に、凄美恋の顔がどんどん赤くなっていっている。
「ほんま、腹立つわ……。自分、ちょっと投手の才能あるからってほんま人のこと馬鹿にすんのもいい加減にせえよ? ……華菜が誘いに来るまでマウンドにも登られへんかったくせに……。あんたの方がうちよりもずっと弱虫やのに、偉そうなこと言わんとって!」
凄美恋が体を震わせていた。綺麗な黒髪が今にも逆立ってしまいそうなくらい怒っているようだった。
「あんた、自分がお姉さんの湊唯のこと超えられへんかったからって、その八つ当たりで、才能の無い後輩ピッチャーいびるって、どういう神経しとんねん!」
「はぁ? お姉ちゃんの話は今関係ないでしょ?」
姉の話は由里香の琴線にダイレクトに触れる部分である。滅多なことでは取り乱さない由里香が、思いきり応戦する。
「ちょっと、2人とも、本当にやめて!」
完全にヒートアップしてしまっている2人のことを止められず、華菜が本格的に慌てる。
凄美恋を気分よくマウンドに立たせようと思って集まったのに、これではまったく逆効果だ。チームの中心である凄美恋と由里香が仲違いした状態で試合に臨むなんて危険すぎる。
「あんた、ほんま先輩とか関係ないわ。外出えや、しばいたる!」
「ええ、望むところよ! 売られた喧嘩は買うわ!」
大会の真っ只中に喧嘩を始めてしまう2人のことを華菜は泣きそうな顔をして、みっともなくあわあわしながら見守ることしかできなかった。
おまけに店内の視線はここのテーブルに集まってきてしまっている。このまま本当に暴力沙汰にでもなって学校に連絡でもされたら、場合によっては大会出場自体が危なくなるのではと思い、華菜が本気で動揺していると、予期せぬところから助け舟がやってきた。
ツカツカとファミレスの店員さんが早足でやってきて、華菜たちのテーブルの前で足を止める。その店員さんの顔を見て、由里香も凄美恋も驚いたように目を丸くしていた。
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