第244話 店内での喧嘩は厳禁です②
「で、作戦会議ってなんやねん?」
凄美恋が注文したカルボナーラをフォークに巻きながら華菜に雑に尋ねた。
呑気に腹ごしらえをしている凄美恋の正面で華菜と由里香はコーヒーだけ注文して、座っていた。華菜だって試合と練習の後でお腹は空いているはずなのに、不安のせいで何かを食べたい気分にはなれなかった。
由里香がどういう意図で同席しているのかわからない不安はあるけれど、呼び出しておいて何も話さないのは変なので、華菜がストレートに本題に入る。
「ねえ、凄美恋はなんで投手やりたくないのよ?」
「なんでって……、才能ないからやけど? ずっと言ってるやん」
華菜の質問に凄美恋は俯きがちに答える。いつもの元気な声とは違い、どこか寂しそうな声で。
「もう二度とやりたくないのよね?」
「せやで……。もう二度とやりたくないし、明日の試合やってほんとは投げたくないねん。華菜と監督が無理に言うから仕方なく、嫌々マウンドに上がるけど」
「ちょっと、またそんな否定的なこと言わないでよ。いい、明日は無理にでも投げてもらわないと困――」
「じゃあ、投げなくていいわよ。いえ……、投げないで頂戴。そんな気持ちでマウンドに立たれたら迷惑なの」
華菜がいつものノリで凄美恋を宥めている途中で、由里香が意志の強そうな、しっかりとした声で言い切った。その声を聞いて、華菜だけでなく凄美恋も困惑して硬直してしまった。
「ちょっ、ちょっと! 由里香さん、変なこと言わないでくださいよ!」
華菜が慌てて由里香を宥めにかかる。そんなことを言われたら凄美恋がここぞとばかりに由里香にマウンドを譲ってしまうではないか。
そう思って、華菜が凄美恋の顔をチラリと見ると、なんとも言えない、困ったような表情をしていた。少なくともそれは、投げなくてよくなった喜びを表す顔としては不適切であった。
慌てる華菜と困惑している凄美恋をよそに、由里香はまだ話を続ける。
「マウンドっていうところはね、わたしたちピッチャーにとって神聖な場所なのよ。うちの部は幸いピッチャーをする人がわたしだけだからそのままマウンドに立っているけど、たくさんピッチャーを抱えている学校だと、みんな必死の思いでマウンドという煌びやかな舞台に立つために争っているのよ。そんな素晴らしい場所にあんたみたいに投手というポジションを冒涜しているような子に立ってほしくないのよ」
由里香が睨みつけるようにして凄美恋の方を見ている。
「あっそ、じゃあ勝手にマウンド上がったらええやん」
凄美恋がプイっと横を向いてしまった。
「ああ、もうちょっと凄美恋、いじけないでよ……」
華菜が凄美恋を宥めにかかるけど、そんなことはお構いなしに由里香が畳みかける。
「ええ、遠慮なく上がらせてもらうわ。わたしならあなたと違ってちゃんと抑えられるし、なによりもすぐ逃げちゃうような弱虫じゃないもの」
「は? どういう意味やねん?」
今度は凄美恋が思いっきり由里香のことを睨みつけた。
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