第233話 復活の由里香②
チームは初勝利を飾り、続く2回戦の雉原高校戦でも先発の由里香が躍動した。7回を投げ切り、被安打1の無失点で、2試合連続完封と完璧に抑えた。
この2試合は14回を投げて被安打2無四球無失点31奪三振は味方ながら恐ろしく感じてしまう。これが1年以上ブランクのあった人物の投げる球なのだろうかと華菜は感動と同時に困惑もしていた。
打線の方も初戦に続き華菜と凄美恋と由里香を中心に2桁安打で5得点。投打共に夏の大会とは比にならないくらいレベルは上がっていた。なんの問題もなく準々決勝に行けたのはきっと富瀬のノートの効果や合宿の効果のたまものなのだろう。
もっとも、華菜の中には不安が無いというわけではないのだが……。
「正直ベスト8に残れたなんて、まだちょっと信じられないです」
学校のグラウンドに戻ってから、華菜が美乃梨に話しかける。明日の準々決勝に備えて軽めに体を動かしている周りの子たちからは離れて、会話が聞こえないような距離で2人だけになった。
美乃梨は初期のころから野球部創部を支えてくれて、心が折れかけた華菜を何度も励ましてくれた先輩であり、そして野球の知識はチーム随一。だから、華菜の心の中に渦巻く不安を吐露しやすい相手でもある。
「ボクもビックリしてるよ。湊さん本当に頼もしいね」
華菜が大きく頷いた後、美乃梨が続ける。
「あ、華菜ちゃんも1,2回戦通して7打席連続安打なんて凄い大活躍だったよね。中学時代のヒットメーカーっぷりを思い出すよ」
元々中学時代には男子に混ざってもヒットを量産していた華菜だから、そこまで難しいことでもなかった。美乃梨に褒めてもらえて嬉しいけれど、今はそんなことを話している場合ではない。
「あの……、美乃梨先輩は正直なところどこまでいけると思いますか?」
「どこまでって……。それはもちろん県大会突破して地区大会も優勝するよ。それで全国出場できると思っているよ」
美乃梨が笑顔で言っている。もちろん華菜としてもそれが本心で言っているのなら嬉しいところである。
「美乃梨先輩、わたしは美乃梨先輩が見た率直な本心での感想が欲しいです。一番客観的にチーム状態を見られる美乃梨先輩に、キャプテンとして今のチーム状態が聞きたくて相談しているんです」
華菜が真面目な顔で言うと、美乃梨も笑顔を作るのをやめて真面目な顔をした。ふう、と小さくため息をついてから言う。
「明日は厳しいかもしれないね」
横に立っている華菜の方は見ずに、どこか遠くの方を見ながら美乃梨は呟いた。
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