第232話 復活の由里香①
「由里香さん、あと1つ落ち着いて取っていきましょう!」
華菜がサードから声をかける。
7回表、3-0で桜風学園3点リードの最終回の守備は6球で三振2つを取り、早くも2アウトとなっていた。この回も由里香は何の問題も無く、投球を続けている。初回から凡打の山を築き続けた由里香はここまで被安打1、15奪三振と完璧なピッチングを見せていた。
夏の大会の皐月女子戦のときのように中盤からスタミナ切れで崩れるなんてことも無く、変化球もしっかりと投げられている。捕手の桜子と二遊間の菱野姉妹も夏の大会と比べて、格段に守備のレベルが上がっていて、華菜も安心して見ていられた。
由里香が最後の打者を2球で追い込み、3球目。遊び球は使わず、高めのストレートを投じ、打者から空振りを誘った。主審が三振とゲームセットを告げる声を発し、由里香の完封勝利で桜風学園が創部初めての公式戦勝利を掴んだのだった。
「由里香さんやりましたね!」
試合後の挨拶を終えて、華菜が由里香に思い切り抱き着いた。
「ちょっと、1つ勝っただけで大げさよ」
「だって、久しぶりに由里香さんの勝利シーンが生で見られたんですもん!」
前回華菜が目の前で見た由里香の勝利は、中学時代、華菜の敗北と同時に起きた事。だから、今回由里香と同じチームで喜びを分かち合えることは感慨深かった。
華菜は苦笑する由里香のことは気にせずギュッと抱き着いていたままだった。
「華菜さん! はしたないから離れてください!」
桜子が強引に華菜を引っ張った。
「桜子先輩、痛いです……」
はしたないという理由以外にももっと重要な理由があるのではないかと思ってしまうくらい勢いよく引きはがされる。握手会で時間制限超えても全然どかないファンの人じゃないんだから、と内心むくれていた。
「華菜ちゃんやったよ!」
千早も大喜びで華菜の元へとやってきた。
「そうね。これでやっと1歩前に進めたわね」
先ほどの由里香に対する時とは全然違い、冷静に凛とした表情で華菜が言う。そして、今度は千早がギュッと華菜に抱き着いた。
「ちょっと、千早。1回戦を突破しただけでそんな思い切り抱き着かれても恥ずかしいからやめてよね」
華菜がそう言って、ゆっくりと千早を自分の身体から引きはがした。それを少し遠くで見守っていた美乃梨が怜に話しかける。
「ねえ、れーちゃん。華菜ちゃんって意外と天然なのかな?」
「まあ、自分ですることとされることは別物ですし。わたくしも人を弄ぶのは好きですが、弄ばれるのは大嫌いですのよ」
「それもいろいろと問題なような……」
うふふ、と上品に微笑む怜を見て、美乃梨が苦笑していた。
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