第231話 初勝利に向けて②
とりあえず手を繋いでみたものの、黙って手を繋ぐだけの円陣だとなんだか寂しいから、慌てて即興で考えた掛け声を付け足した。
「えっと……、そうですね。横の人と手を繋いでもらったら、私が『桜風学園野球部ファイトー』って言うんでみんなで適当に声出してください!」
「ダサいし雑ですね」
桜子が真面目な調子で華菜の考えた試合前の円陣の掛け声にダメ出しをする。
「ちょっと、酷くないですか! 咄嗟に振られて私も頑張って考えたんですから!」
「わたくしは華菜さんらしくて良いと思いますわ」
怜がうふふと笑いながら、生徒を褒める小学校の先生みたいな調子で言う。
「それは褒めてくれてるってことで良いんですよね……?」
「れーちゃんなりの賛辞だと思うよ」
怜と美乃梨が一応肯定してくれたので、とりあえずみんなで手を繋いでいくと、9人で作った輪ができる。
それを近くで呆れながら見ていた富瀬にも、華菜は声をかけた。
「富瀬先生も入りましょうよ」
「試合前にそんなだせえことしてどうすんだよ? お前らが勝手にやったらいいだろ?」
「みんなで一丸となって勝っていかないといけないのに、富瀬先生だけ勝手なことしないでくださいよ」
「小峰、お前キャプテンだからって偉そうだな? いつからお前そんなに偉くなったんだよ?」
文句を言いながらも富瀬が渋々手を繋ぎ、輪の中に入った。高校野球では、監督はグラウンドに足を踏み入れてはいけないから、あくまでベンチの中から身を乗り出しながら、みんなよりも一段低いところからだけど。
「ったく、こんな仲良しこよしなことしてたら舐められんぞ?」
「まあ、私たちのレベルだとみんなで一丸で勝っていかないと勝ち抜けないし、ちょうどいいじゃないですか」
華菜の言葉にみんな無言で同調する。こんな創部間もない学校が奇跡を起こせるとしたら一体感とかチームの和とか、そういうプレー以外の部分で他の学校と違うことをやっていかなければいけない。
「じゃあ、行きますよ! 桜風学園野球部ファイトー!」
華菜の声に続いて「おー」というみんなの声が聞こえた。ちなみに、一番大きな声を出していたのは富瀬だった。
「先生意外とノリノリですね」
美乃梨が茶化したら富瀬は「うっせーよ」と少し恥ずかしがりながら背を向けてベンチの奥に引っ込んでしまった。
なんだか雰囲気も良いし、もしかしたら善戦できるかもしれない、そう思い、審判の声に従って整列場所へとみんなで走っていった。
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