幕間5 『月刊野球少女』編集部にて ~夏大会総括と秋季大会展望編~⑤
「まあ、岡山大会はそんな感じとして、中国地区大会はどうなると思います?」
「中国地区大会のことは出場チームが出揃ってから予想したらいい気もするけど……」
苦笑しながらも、積極的に中国地区大会のことまで目を向けてくれる笹川に嬉しくなり、黒井は続ける。
「優勝争いっていう意味では星空学園は外せないわね。あそこは全国常連の強豪校だから、中国地区大会に進んでも、間違いなく結果を残すと思うわ。あとは、星空学園と互角か、それ以上に強いかもしれない紅葉女学院ね」
夏の広島代表である紅葉女学院もまた、星空学園と同じく全国大会ベスト8にまで進んだ。
「紅葉女学院ですか。あのアンダースローのエースの子がなんかゆるくて可愛いところですね」
笹川が指しているのが、おっとりとしていて、なんだかゆるキャラみたいな雰囲気を醸し出していた1年生の
「米崎茉莉ちゃんのことね。正確にはあの子はエースじゃなくて、一応二番手ピッチャーっていう位置付けだったけど」
紅葉女学院の背番号18を付けた1年生投手の米崎茉莉が今年の夏は躍動していた。県大会決勝で、脱水症状で緊急降板した2年生エースの
149cmと小柄ながら、アンダースローから多彩な変化球を操り、相手を翻弄し、見事広島県大会の決勝で無失点リリーフで勝利を挙げると、そのまま米崎茉莉が実質エースとして、夏の全国大会はすべての試合で先発したのだった。
「エースなのに、出番をほとんど茉莉ちゃんに取られちゃった結芽花ちゃんの意地もあるだろうし、秋はもっと強力なチームになって戻ってくると思うわ。あと、注目校としては……」
ふむふむ、と一生懸命メモを取る笹川にさらに黒井が熱く語ろうとした時に、笹川は「あ!」と大きな声を出した。
「もう定時なんで、わたし帰りますから、続きはまた今度お願いします!」
「え、ちょっと……」
突然メモをしまって、黒井の元から去っていった笹川のことを呆れながら見つめる。
「まったく、あの子はやる気があるのかないのかわからないわね……」
急いでカバンを持って帰ろうとしながらも、一応笹川は黒井のところに戻って来て、挨拶だけはして帰る。
「すいません、今日はいろいろ教えてくれてありがとうございました。明日からはわたしもバリバリ記事書きますので! 今日はお先に失礼しますね!」
「まったく……。良い彼氏見つけなよ」
足早に去っていく、やる気があるのかないのかよくわからない笹川に向かって、一応エールを送っておいたのだった。
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