幕間5 『月刊野球少女』編集部にて ~夏大会総括と秋季大会展望編~④
「じゃあ、とりあえず、わたしたちのメイン担当の岡山県大会についてだけど……」
「予想するまでもなく星空学園じゃないですか? 夏の岡山県大会は全試合で圧勝してましたし」
それには黒井も頷いて、同意する。岡山県大会決勝戦の皐月女子戦以外は全てコールド勝ちで突破しているし、皐月女子戦でも凪原綺羅星がリリーフでマウンドに上がってからは、1本のヒットも許さずに快勝した。
「あとは夏の準優勝校皐月女子や、名門校の岡山文学館あたりがどれくらい食らいついていけるかってところですかね」
皐月女子は小さなエース菜畑ミレーヌや世代トップレベルの名捕手若狭美江がいるし、岡山文学館も変則サイドスローのエース羽根田胡桃と予測不能の大胆リードをする1年生捕手の瓦谷美海香がいて、両チームともにバッテリーが盤石である。だから、この2校を対抗馬に挙げるのは、黒井も納得である。
「笹川にしては随分とまともな予想ね、もっと変なところを上げるかと思ったわ」
「……桜風学園とかですか?」
笹川が少しからかうような笑みを浮かべて黒井の方を見た。
「ちょっと、いきなりそんな創部したての学校の名前を出すなんて、どうしたのよ?」
黒井はできるだけ何事もない風にして答えたが、明らかに目をかけている学校であった。
エースの湊由里香は、黒井が星空学園で監督をしていた時代に教え子だった湊唯の妹。夏は本調子ではなく、皐月女子打線につかまって負け投手になったとはいえ、その非凡な才能の片鱗は間違いなく確認できた。
それに、小峰華菜とは岡山県のアマチュア女子野球記者として何度も取材で話をしたことがある。中学時代には男女別のチームで野球をする今の時代に、男子に混ざってプレーをしていた小峰華菜の存在はかなり目立っていた。
そして、なんといっても監督が富瀬美香だし、桜風学園に目をかけているのは否めない。
「黒井さん、いっつも桜風学園の情報気にしてますし、夏の大会の前にも名前出してたからしっかり覚えちゃいましたよ」
「あんた、ゆるフワ系のおっとりした子と思っていたけど、案外鋭いところあるのね……」
黒井が苦笑した。ひっそりと誰にもバレずに桜風学園を推していたつもりだったのに、完全にばれてしまっていたようだ。
「で、実際のところ、桜風学園はどうなんですか?」
「期待はしているけど、夏のままのレベルならまた早々に負けちゃうと思うわよ」
「あれ? そんなもんなんですか?」
「あのまま全然進歩してなかったらね」
もちろん、あれから急速に力を付けている可能性も大いにある。夏の大会で見た感じだと、まだ明らかに急造チーム感があって、しっかりとコミュニケーションすら取れていないような雰囲気だったから、チームのまとまり方次第では大幅なジャンプアップもあり得るとは思う。
だけど、そんな推量や期待だけでは有力校に挙げるわけにはいかなかった。
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