第209話 菱野姉妹④
「それで、話ってなんですか?」
「ああ、そうだったな」
富瀬の目つきと声色が、真剣みを帯びたものに変わった。思ったよりも真面目な雰囲気を醸し出してくるから、一度抜けた気を再び入れ直す。
富瀬の口から出てきたのは、華菜が全く想定していなかったような方向からの話題だった。
「菱野真希と菱野咲希のこと、お前はどのくらい知ってるんだ?」
「どのくらいって……」
どういう意図でそんな質問をされたのかよくわからないけれど、菱野姉妹のことを考えてみると、真希と咲希のことをそれほどよくわかっていないことに気が付いた。
「双子な事は知ってます」
「そんなもん見ればわかんだろ……。他にねえのかよ?」
「他に……」
思い返してみると、2人とは練習の時以外にほとんど話していない事に気が付いた。真希と咲希はずっと2人だけの世界に浸っていて、周りをシャットダウンしている感じで、なかなかこちらから声を掛けづらいのだ。
「そう言われてみると、わたしもあの2人のことは正直よくわからない部分も多いです。2人ともほとんど日に焼けていないので、ずっと文化部の子かと思ってたんですけど、その割にはいきなり二遊間なんて難しいところ守らされているのに動きも良いし、運動神経抜群の文化部の子、とかですかね?」
チームメイトのことをよく知らないなんて申し訳ないから答え方に困ったけれど、取り繕っても仕方がないので、諦めて思ったことをそのまま伝えると、その言葉に富瀬が頷く。
「そうなんだよな。あたしもやけに動きが良かったからとりあえず二遊間守らせてはみたけど、思ったよりも良い動きしてたから気になってたんだよ。だから調べてみた」
そう言って富瀬が見せてきたスマホの画面には、2年前の岡山県の中学女子軟式テニスのダブルス大会の結果が載っていた。
「これって……」
準優勝の欄にある、『菱野真希、菱野咲希ペア』と書かれた名前は、紛れもなくあの2人のものである。だけどにわかには信じられない。
「真希と咲希と同姓同名の人ですか?」
「いや、違うだろ……。同姓同名の同い年の双子が同じ県内にいるってどんな奇跡だよ」
富瀬が正論を言うので華菜は恥ずかしくなりつつも、スマホの画面に再び目を落とす。少しスクロールすると、大会風景の写真が載っていた。
そこに映っていた写真が本当に菱野姉妹のものであることにまず驚いたのだが、それ以上に驚いたことがあった。
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