第2章 夏合宿

第200話 合宿所へ向かおう①

「ねえ、こんな暑い中合宿するの? もう帰りたいんだけど」


「楽しみだねー」


菱野姉妹が嚙み合わない会話をしているのを華菜は横で聞きながらスマホの時計を確認すると、7:58と表示されていた。華菜たち野球部員9人は富瀬に指定された通り、朝7:30に桜風学園高校の正門前で集合していたので、すでに30分近くは待たされていることになる。


8月の中旬に1週間程合宿をすることになったのだが、富瀬はそんな超重要事項を合宿の前日という直前に伝えてきたのだった。


予め怜が2週間前くらいに勝手に富瀬の机から『野球部合宿スケジュール』と書かれた紙を見つけたことを教えてくれたから準備ができたけど、そうでなければ大変な事になっていたに違いない。


「もうすぐ8時ですね……」


「監督以外全員揃ってるんだけどね……」


華菜が呟いた声を聞いて美乃梨が苦笑した。


それからさらに10分ほど経過すると、ようやく富瀬が小走りでやってきた。


「いやー悪い悪い。遅れちまったよ」


とくに悪びれる様子もなく、相変わらず呑気な調子で富瀬が言う。


「私たち1時間近く待っていたのですが……」


「だから謝ってんじゃねえか。まあ安心しろって。あたしが遅れた分はちゃんと1時間遅くまで練習時間伸ばしてやるからよ」


桜子が一応みんなを代表して富瀬に抗議の言葉を伝えたが、特に反省する素振りも見せなかった。


富瀬の言葉を聞いて、真希が小さな声で「1時間も待った上にさらに1時間練習伸ばされるって最悪じゃない」と文句を言っていた。


「ねえ、怜先輩、ほんとにあの人大丈夫なんですか?」


華菜が富瀬に聞こえないように、小さな声で怜に耳打ちをする。


「まあ、今日から合宿ですし、そろそろわたくしがあの方に我が校の野球部に来ていただいた意味がわかるかと思いますわ」


怜が珍しく富瀬の肩を持ったが、華菜はまったく信用できる気はしなかった。

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