第197話 県予選決勝戦⑥
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「ストライク! バッターアウト!」
審判の声が球場に響いた。4回裏の攻撃が一瞬で終わってしまい、一瞬球場全体が水を打ったように静かになった後に、ざわめきだした。
「これは……ヤバいですね」
華菜が喉の奥からようやく声を出したみたいにゆっくりと呟いた。4番の美江を含めて三者連続ストレートだけで3球三振。しっかりと制球されたストレートがストライクゾーンの四隅に次々と投げ分けられていた。
「128km/h出てたもんね……」
美乃梨が渇いた笑いで返した。
一昔前の女子最速レベルの速さである。その球速を入学したばかりの1年生が出したのである。
華菜たち桜風学園野球部もこれから岡山県大会を勝ち抜くには、この投手を打ち崩さなければならないのだ。同い年の恐ろしい投手を前に思わず固唾を飲んでしまう。
「皐月女子はほんと、先に2点取っといてよかったね。これは絶対に追加点は取れないよ」
「ええ、ほんとにそう思います。ちょっと展開が怪しくなってきましたよね」
美乃梨と華菜が苦笑する。
「でもこのまま、ミレーヌちゃんが点を取られなかったら皐月女子の勝ちだし、凪原さんが0に抑えても皐月女子が勝つんじゃないの? きっとミレーヌちゃんならこのまま無失点に抑えてくれるはずだよ!」
すっかり皐月女子の応援に回ってしまっている千早が力強く言う。
「でもそろそろマズいかもね」
「初回から星空学園打撃陣が仕掛けてきてますからね……」
美乃梨と華菜が手元のスコアブックに目を移した。
球数|23、27、19、35。
ここまで無失点の投手とは思えない球数が並んでいる。あくまで相手は県内最強星空学園なのだ。ただ無策にスコアボードに0を重ねているわけではない。
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