第196話 県予選決勝戦⑤
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「いやー、わたしたち完全に悪者ですね」
マウンドに上がった綺羅星がウヒヒと不敵に笑いながら、マウンドに来ていた星空学園の3年生キャッチャー梅田千里に話しかける。
「球場の空気なんて気にせず、自分のペースで投げたらいいからね」
「いやいや、気になりますよ」
「まあ、そうだよね」
いくらスーパー1年生とはいえ、初めての地方予選決勝、しかも2点ビハインドでこれ以上点もやれない場面での登板。
そして、星空学園が負けているにも関わらず、球場の空気は勝っている側の皐月女子を応援する空気が出来上がってしまっている。そんな中で平常心で投げるのは難しいかもしれない。
そんなことを千里は考えていた。だが、綺羅星の言葉はそういう意味の発言ではなかったようだ。
「こんな最高に楽しいアウェーな雰囲気、気にしないと勿体ないですよ」
「え?」
「だって考えても見てくださいよ。皐月女子の子たちが一丸となって必死の抵抗で
千里は綺羅星の発言を黙って聞いていた。予想の斜め上の言葉が出てきていて少し困惑する。
「ウヒヒ、絶望感を与えるには最高の局面じゃないですか。球場にいるみんなが望む、皐月女子高校の小さなエースが常勝星空学園をやっつけるという展開に水を差してやるのに最高の局面ですよ」
「常々思っているけど、あんたマウンドに上がるとめちゃくちゃ性格悪くなるわよね……」
千里が苦笑した。
「球場のお客さんたちだってこんなわたしみたいなか弱い1年生が打ち崩されることを望んでいるんだから性格悪いのはお互い様っすよ」
綺羅星がまたフヒヒと笑った。
「か弱い、ねぇ……」
1年生が打ち崩されることを望むのは性格が悪いという部分には一理あるかもしれないが、綺羅星がか弱いかどうかと言われると同意しかねる。
「まあいいわ。とりあえずいつも通りのメンタルしてるんなら安心だわ」
「いつも通りじゃないですよ、いつもよりも数倍捻り潰し甲斐があってわくわくが止まらないですよ!」
「はいはい」
千里は苦笑しながらも綺羅星がいつもの調子であることに安堵してポジションに戻る。
「ま、あの子がそのつもりなら、わたしも最高に性格の悪いリードしてあげないとね。同じアウトを取るにしても、少しでも相手に絶望感を与えるアウトの取り方をしないと」
千里が笑みをミットで隠すようにしながら守備位置に戻っていった。
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