第195話 県予選決勝戦④

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試合は中盤4回の裏まで来ていた。


女子野球は7回で終了なので、ちょうど真ん中のイニングになる。初回の若狭美江の2点タイムリーツーベースが出てから、星空学園の佐藤夏菜子は1人のランナーも出さずに、落ち着いたピッチングをしている。


対する皐月女子の先発菜畑ミレーヌも毎回ピンチを迎えながらも、なんとか耐えて4回無失点。スコアは2-0のままだ。


「ミレーヌちゃんすごいね!」


4回の表も満塁のピンチを無失点で乗り切ったミレーヌのピッチングを見て、千早がはしゃぐ。気づけば千早はすっかりミレーヌのファンになってしまっているようだ。


気持ちはわかる。小さな体で県内無敵の星空学園に立ち向かうその姿はまるで主人公のようである。


球場の空気もすっかり皐月女子を応援するムードが漂っている。先ほどの満塁のピンチを抑えたときなんて、大入り満員のプロ野球チームの球場かと錯覚するくらい盛り上がっていて、完全に皐月女子のホームグラウンドみたいになっていた。


ついに星空学園以外の学校が岡山県の代表として全国大会に行くのではないかという雰囲気ができあがりつつあった。


「4回は先制タイムリーの若狭さんからだね」


美乃梨が呟く。華菜の見た感じ、先ほどの打席では若狭美江が完全に佐藤夏菜子の投球を読み切っているような雰囲気があったし、皐月女子としては先頭打者の美江を塁に出して、どんな手を使ってでも追加点を取りたいところだろう。


そんなことを考えながら見ていると、場内アナウンスの声が聞こえてくる。


『選手の交代をお知らせいたします。星空学園高校、ピッチャー佐藤さんに代わりまして、凪原さん』


「ここで変えますか」

華菜が呟く。


星空学園先発の佐藤夏菜子は初回こそ不安定だったが、美江にタイムリーを打たれて以降は打者8人を完璧に抑えていた。


ただ、それでも話題の1年生ピッチャー凪原綺羅星の登板は、皐月女子の方に流れていた球場内の空気を変えるための効果は大いにあったようだ。球場内がざわついていた。


ビハインドの場面で出て来た綺羅星の姿に球場中が盛り上がっていた。

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