第180話 独り相撲③
「やべえな」
華菜がベンチに向かうと、開口一番神妙な顔をして富瀬が言う。
「凄美恋を続投させるんですか?」
「正直あたしもわかんねえんだよな……」
「わかんねえって、そんな無責任な……」
華菜はそう言いつつも、たしかに突然できた野球部の顧問に突然就任した富瀬だから、まだまだわからないことも多いのかもしれないとほんの少しだけ同情心も芽生えてしまう。
まあ、それを加味してもわかんねえという回答が投げやりすぎることは否めないが。
「でも、あたしはやっぱり雲ヶ丘のポテンシャルに賭けてみてえんだよなあ」
「いや、そんなポテンシャルも何も、そんなもの発揮する余裕もなさそうですよ。そもそもここまで5人連続のフォアボールなんですから交代しないといけないと思いますよ?」
「だがな、小峰、うちのチームには残念ながらピッチャーができるのが湊と雲ヶ丘の2人しかいない。湊はもうスタミナの限界を超えてんだから、雲ヶ丘に頼むしかねえんだよ。それに雲ヶ丘の球はストライクゾーンに入れさえすりゃ何とかなりそうじゃねえか」
「まあ、たしかにそうですね……」
実際凄美恋の球は球威もあり、球速もそれなりに出ている。ただし、ストライクゾーンにボールが入ってくれないという致命的な弱点もあるけど。
「でも、さすがにあのコントロールじゃどうしようもないんじゃないですか? このままだと凄美恋がひたすらフォアボールで点を取られて行くのを見守るだけで夏が終わっちゃいますよ!」
さすがにそれは嫌だった。とにかくまだ7回表の攻撃が残っているのだから、すでに5点取られているけど、1点でも少なく抑えて最終回につなげたい。
「あたしは雲ヶ丘がどうしようもないノーコンって訳じゃないと思うんだよ。本当はもっとコントロールが良いんじゃねえかなって思うんだよ」
「え?」
思わず華菜は聞き返す。言っちゃ悪いが少なくとも今日の凄美恋の様子を見て、コントロールが良いなんてイメージはまったく抱けない。
「さっきから城河がボールゾーンにストレートを要求した時にはきちんと制球できてんの見たか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます