第168話 スタミナ不足③

5回になっても由里香の調子は戻らなかった。


まず、先頭の9番打者田畑紅花に四球を許す。9番打者の1年生にまで四球を出してしまうあたり、かなり苦しいのだろう。


続く1番木田優子にも連続四球。簡単にランナーを溜めてしまい、ノーアウト1,2塁のピンチを迎えてしまった。


「由里香さん! 落ち着いていきましょう!」


声はかけてみたが、今度も届いているか怪しかった。すでに由里香は周囲の言葉が耳に入らないところまで来ているのだろう。


できればこの辺りで一度、キャッチャーの桜子にマウンドまで行って欲しい。


内野が全員集まるタイムは1試合に3回だけしか取れないが、バッテリー間のタイムはキャッチャーの判断で何度もできるのに。


華菜はそう思ったけど、桜子はマウンドに行く様子がない。おそらく桜子も初めての公式戦でいっぱいいっぱいになっているのではないだろうか。


(1点もやりたくないけど、この回は1点どころでは済まないかも……)


嫌な予感が頭をよぎり、華菜は慌てて首を振る。邪念は取り払って、しっかりと腰を落として打球に備えるしかない。


2番吉川光への投球もボールが先行して3ボール1ストライクとカウントを悪くする。その後の5球目、甘いコースに投じられた球を思い切り引っ張られて、3塁方向、華菜の近くへとライナー性の打球が飛んできた。


華菜は思い切り、勢いよくボールに向かって飛び込むと、なんとかグラブに入ってくれた。サードライナー。これでなんとか1アウト。


美江の前にランナーを溜めたくない。その気持ちはきっとマウンドで戦う由里香は華菜よりもさらに強く思っているだろう。


3番小田原祐実には厳しいコースに投げ続けた。できれば併殺にとりたいところである。とにかく徹底して低めに投げ続けた結果、ゴロは打たせられた。


しかし打球は遅すぎ併殺にはならず、その間に1,2塁にいた2人のランナーはそれぞれ2,3塁にまで進塁してしまっている。結果的に送らせた形となり、2アウト2,3塁。


かなり嫌な形で、先程先制タイムリーを打った、4番打者の美江を迎えることになった。


1塁は空いている。若狭美江を歩かすこともできる。


すでに得点2-0と2点ビハインドの状態である以上、もうこれ以上の失点をするわけにはいかない。


そのタイミングで、監督の富瀬が審判にタイムを要求していた。

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