第163話 才能無しのドール少女⑮
「ねえ、美江は星空学園に入るの?」
そろそろ進学先の最終決定をしなければならない秋深い頃、ミレーヌが聞いてきた。ありがたいことに星空学園含め、いくつもの学校から推薦をもらっていた美江は行きたい学校にどこにでも行けるような状態にあった。
「まだ決めてない」
「絶対星空に入った方がいいわ! 美江にはきっとぴったりだし、今度こそ全国優勝ができるわ!」
県内の常勝軍団星空学園は全国屈指の強豪校。たしかに、中学時代に成し遂げることのできなかった全国制覇を目指すのなら、間違いなくそれが堅実な選択になる。美江の実力なら県内最強の星空学園でも早い段階でレギュラーを取れるだろう。
美江の周囲では当然のように、星空学園に入るものとして話が進んでいた。だけど美江はまだ進学先については悩んでいた。
目の前で無邪気に美江の星空学園への進学を後押ししているミレーヌのことが気になっていた。
「ちなみにミレーヌは高校になっても野球を続けるつもりなの?」
美江の質問にミレーヌは目を丸くした。そして声高らかに答える。
「当たり前じゃない。どうしてわたしが野球をやめる必要があるのよ?」
元々大きな目をさらに見開いて、オーバーに驚いたようなリアクションを、全身を使って表現した。
「まあ、そうだよね」
ミレーヌのいつもと変わらない姿を見て、美江は安心して思わず笑ってしまった。
「ねえ、まだ中学2年生のわたしのことなんてどうでもいいじゃない! 今はあなたの進学先の心配をしないといけないわ!」
先の大会、ミレーヌと美江がバッテリーを組んで決勝で逆転負けをした試合を最後に、美江たち3年生は引退した。練習は一緒にしているけど、試合には出ない状態にある。
美江とバッテリーを組まなくなったミレーヌは魔法が解けてしまったみたいに、打者を抑えることができなくなった。
ミレーヌ本人を含め、チームではまた元に戻ってしまったか、くらいの感じで誰も気にしてはいないが、美江の中では自身が捕手を勤めなければミレーヌは打者を抑えられないという疑惑が確信に変わっていた。
本当はチームが勝つ為には、すぐにでもその事実を監督に伝えなければならなかったのかもしれない。日頃の勝利第一主義の美江なら間違いなくすぐに伝えていただろう。
だけどその事実を監督に伝えてしまうと、ミレーヌは再びベンチから外され、練習試合にすら使ってもらえなくなってしまうだろう。
公式戦でまったく登板させてもらえないミレーヌが、なんとか一番優先順位の低い投手としてではあるが、ベンチに入らせてもらえているのは美江と共に夏に活躍したことで復活の可能性があると思われているからだろう。
だから美江は、ミレーヌが美江以外の捕手とは組めないなんてとてもじゃないが言えなかった。その事実がバレたら、きっともうミレーヌの登板機会は二度と巡ってこない。
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