第164話 才能無しのドール少女⑯
もし美江が星空学園に進学したとして、一生懸命頑張るミレーヌを誰が支えてあげられるのだろうか。
美江以外と組めばまともに試合にもならない投手のミレーヌは、当然星空学園から誘いなんてくるわけない。それは勿論の話として、そもそも野球部からの誘いなんて来ないだろう。
きっと弱小野球部のある学校で控え投手として、才能を埋めたまま高校を卒業して、彼女の高校での野球人生は終わってしまうのだろう。
美江と組んでスローボールを操らせれば誰にも負けないような投手になれるかもしれないのに。
だから美江はなんとしても高校でもミレーヌと組まなければならなかった。そう思い、美江がゆっくりと思いを告げる。
「わたしは皐月女子に行こうかなって思ってる」
「皐月女子?」
ミレーヌが初めて聞いた単語に目をパチパチとして困った表情を浮かべていた。
「野球部はまだ創部3年目で、あまり強くないんだけど、弱小校の中では比較的野球部の環境は整っているところ」
「どうしてまたそんなところに? そんなところだと全国優勝できないんじゃないの?」
ミレーヌが可愛らしく小首を傾げた。
「わたしが星空学園に行けば、全国で優勝できる可能性はある。それは皐月女子にいくよりもずっと可能性の高いことだと思う。だけど、わたしが星空学園に行ったらミレーヌ、あなたはどうするの? あなたは絶対に星空学園からの推薦なんてもらえないと思うけど?」
「美江、話が読めないわ。どうしてあなたの進路にわたしが出てくるの? あなたの人生なんだからあなたが自分の好きなように選ばないと。それにわたしはあなたがいなくても、どこに行っても野球を続けるわよ?」
もっともな話だと思うし、美江も本来は人の為に自分の進路を変えるなんてことするタイプではない。
だけど、これほどまでに努力と結果の伴わないミレーヌを見ると、やはり放ってはおけなかった。ましてや美江と組めばミレーヌの努力が報われるという状況下において、ミレーヌを見捨てることはできなかった。
「わたしは皐月女子に行く。そして、できれば皐月女子にミレーヌも一緒に進学してほしい。これはわたしからのお願い……というか相談。もちろんミレーヌにはミレーヌの人生があるから強要はできないし、ミレーヌには来年になっていきたいところに行ってくれればいい。ただ、わたしの思いとしては星空学園で勝つんじゃなくて、ミレーヌとバッテリーを組んで勝ちたい……!」
ミレーヌの努力が報われないと可哀想という理由だけではない。純粋にミレーヌ程捕手の力量を試してくれる、一緒に組んでいてワクワクドキドキさせてくれるピッチャーはきっと星空学園にはいない。
ミレーヌよりもセンス抜群の投手とは、今までに何人も組んできた。だけど、彼女たちは別に捕手が美江でなくとも誰と組んでも結果を残す。
本来投手と捕手はチームにおいて夫婦のような一心同体の状態にならなければならない。今まで組んできた投手とは完全に投手と捕手、別々の存在だった。ただバッテリーのそれぞれのレベルが高いから、結果としてうまくいっているだけのように感じた。
だけど、ミレーヌとは明確にバッテリーという1つの存在として戦っている、そういう気持ちになれるのだ。
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