第161話 才能無しのドール少女⑬

大会が始まると、チームはいつも通り順調に勝ち進んで行った。


ミレーヌとバッテリーを組んでいると、相手が面白い様にタイミングを狂わせて空振りをし、凡打の山を築いてくれる。美観ガールズのメンバーとして野球をしてきた2年半で美江はたくさんの好投手とバッテリーを組んできたが、一番リードをしていて楽しいのがミレーヌだった。


一応複数人の投手を起用して勝ち進んでいくチーム方針だったので、他の投手にも出番は与えられれてきたが、ここぞの場面で起用されるのはミレーヌだった。


時間はかかったが、人一倍努力をしてきた彼女がようやく日の目を浴びているのだ。その状況に美江の気持ちも自然と昂ってくる。この子と一緒に全国で戦ってみたいという気持ちは日に日に増していった。


地区予選の準決勝もミレーヌが先発登板した。ミレーヌはこの試合ではいつも以上に完璧なピッチングをしていた。5回を終わって未だノーヒットピッチング。


ただ、相手投手の調子もよく、普段豪打の美観ガールズ打線も鳴りを潜め、5回を終わって2-0と美観ガールズ2点リードで試合は進行していた。


(そろそろミレーヌの為にも追加点を取らないと……)


4番として、キャプテンとして、正捕手として。チームのため、そして好投しているミレーヌのため。美江は様々な物を背負って打席に立っていた。明らかに普段よりも気負ってしまい、普段なら考えられないくらい打ちたい気持ちが逸ってしまっていた。


思いきり踏み込んで打ちに行った球が内角を抉る。平生ならよけられたかもしれない球を思いっきり左手首にぶつけてしまった。


「美江、大丈夫?」


ミレーヌは投球練習もそっちのけで心配そうにコールドスプレーを持って美江のそばに駆け寄った。


それなりに球威のある球だったから、痛みもあった。ミレーヌにもこのくらいの球威があればいいんだけどな、と美江は場違いなことを考えながらコールドスプレーを吹き付けてもらっていた。


試合に出られないほどの怪我ではなかったものの、明日の決勝のこともあるので大事を取って変えるという判断だったのだろう。このまま逃げ切れば打席の回らない美江にはすぐに代走が送られた。


美江の代わりに6回からマスクを被る子も守備面だけ見れば、美江と変わらないくらいレベルの高い子だから大丈夫だろう。ミレーヌも今日の調子なら大崩れしないだろうしこのまま逃げ切れる。美江は緊張はしながらも楽観的に考えていた。


しかしそれは誤算だった。

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