第156話 才能無しのドール少女⑧
美江はミレーヌに向かって言い放った。
「あなたの球、素手でとっても悲しいくらいなんの痛みも無かった。こんな球金属バット相手では軽く当てられただけで長打になっちゃうよ。あなたの投げる球はチームにとって何の役にも立たないから! 悪いけど、わたしはあなたの球を捕りたくないから他のチームに行って! お願いだからもううちのチームから抜けて! いられても迷惑だから!」
今までのチームの伝統として、やる気の無い子や伸びない子はさっさとやめるし、うちの厳しい練習についていけるような子はみんな勝手に力を付けていく。普通に練習をこなしていくだけで、強豪校からお呼びがかかるようなレベルには仕上がっていくのだ。
なのにミレーヌだけ、どれだけ頑張っても、人の倍以上練習しても、そのレベルはボール遊びのレベルを脱しない。地道な努力を積み重ねてもまったくレベルが上がらない。きっと体が絶望的に野球に向いていないのだ。
そんな子にうちの厳しい練習をさせるのはあまりにも可哀そうだった。何の上達も見込めないのに苦しい思いだけさせられるのだから。そういう意味で美江はミレーヌに一刻も早くこのチームから抜けて欲しかった。
野球をやめて、可愛い女の子として甘酸っぱい青春を送れば、こんなきつい思いをしなくても、ミレーヌは今よりもずっと人生を楽しめるだろう。
もしかしたら、これだけ可愛らしい見た目をしているのだから、運が良ければアイドルとか女優みたいに華々しい道を歩めるかもしれない。彼女がどれだけ野球を頑張っても得られないようなとても素敵で煌びやかな道を歩めるかもしれない……。
それでも、もしどうしても野球をやりたいのなら、もっと練習のきつくない弱小チームで楽しく野球をすればいい。
「うーん、そっかあ。じゃあもっと球を早くして球威を上げるわ。そしたら美江も取ってくれるわね!」
言葉ではいつもと変わらず明るく言い放ってはいたけど、その目にうっすらと涙が浮かんでいるように見えた。気のせいなのかもしれないと思ったけど、その日初めてミレーヌが練習を早退したから、きっと気のせいなんかではなかったのだろう。
少し言い過ぎたかもしれないと反省はするが、だけどこれが彼女の為なのだと美江はこみ上げる思いをグッとこらえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます