第154話 才能無しのドール少女⑥
「うちみたいな強いチームにいれば、控えとして日本一チームの一員にはなれるかもしれない。だけどエースとしては絶対に無理だよ」
「努力に勝る天才なし、っていうじゃないの。誰がなんと言おうとエース投手として日本一になるんだから!」
「別にあなたが勝手に目指す分には止めないけど、一応先輩として、そしてうちのチームの正捕手として忠告はしたから」
「わたしの球を受けたこともないくせによく言うわね!」
ムッとした表情で大げさに人差し指でこちらを差してくる。
「受けなくてもだいたいわかるから。あと上級生に指向けるなんて、わたし以外の先輩相手だったらすごく怒られると思うからやめた方がいいよ」
「敬語を使わないのは怒られないの?」
怒られる可能性があると自覚しているのならば敬語を使えばいいのにと思いつつ、美江は答える。
「あなたが甘く見られてるから許されてるだけ。誰もあなたのことをポジションを争うライバルとして見ていないから」
「ならチャンスね! みんながわたしのこと甘く見ているなら、今のうちにみんなとの差を詰めて逆転してレギュラーを勝ち取ってやるんだから!」
どこまでポジティブなのだろうか。だんだん呆れてくる。
「勝手にしたら。わたしは先帰るからね」
付き合っていられない。ただでさえ、もうみんな帰ってしまっているのに。こんな子に付き合っている暇があるなら素振りでもしたかった。こんなところでのんきに無駄話をしている間にも、周囲との差は広がっていくのだ。
「ねえ、待って! 美江、わたしの球受けてくれない?」
「は?」
「受けなくてもだいたいわかるっていうけど、もしかしたらわたしが実はものすごく球威のある球を投げるかもしれないじゃない! そこまで言うなら一回捕って見てよ! それでも球威の無い球だって言うのならわたしも納得するわ!」
「ムリ。あなたの球を受けてる時間なんてないから」
「ね? お願い! 一球だけでいいから!」
「だからムリだって。あなたの球を受ける暇があるなら素振りでもする。その方がずっとチームの為になるから」
「きっとわたしの球を受けるのが怖いのね! 美江は怖気づいてるってわけね!」
「そんな安い挑発のらないから」
「ねえ、お願い! お願い! お願い!」
ミレーヌが寝転がって手足をじたばたしだした。いよいよただの子どもと化してしまった。
これ以上はもう面倒見ていられない。美江が背中を向けて歩き出すとミレーヌも駄々っ子モードをやめて、静かになった。
そして去り際に最後に一言だけ「美江のけちんぼ! そっちが捕る気なくても絶対にボール捕らせてやるんだからね!」と捨て台詞を放たたれた。
何とでも言えばいい。美江はチームの勝利の為に、受ける価値のある投手の球しか捕球しないことにしている。可哀想だけど、ミレーヌの球に取る価値はまったくなかった。
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