第153話 才能無しのドール少女⑤
「なんで走るのやめなかったの? みんな2時間前くらいにはもう上がってたのに」
しばらくしてから、ミレーヌの呼吸が整ってきたのを確認してから美江が語り掛ける。
「レギュラーを取るためにみんなの倍練習するのよ」
ミレーヌは青空を見ながら、どこか誇らしげに言う。
「人の倍くらいやったところであなたの体格だったらうちでレギュラーを取るには難しいと思うけど?」
「そんなのやってみないとわからないわ! 窮鼠猫を嚙む。時には鼠だって猫に噛みついて、やっつけちゃうんだから」
やってみなくてもわかるけど、とはさすがに美江は口に出して言わなかったが、内心はそう思っていた。
多分ミレーヌがうちのチームでレギュラーを取ることに比べれば、鼠が猫に勝つ方がよっぽど可能性が高い。もっとも、ミレーヌの見た目は鼠というよりペルシャ猫って感じだけど。
「レギュラーを取りたいんだったら、もっと弱いチームに行った方が良いと思うよ。可哀想だけどうちみたいに強いところにあなたの居場所はないと思うから。あなたはやる気はあるみたいだし、まだ今からなら、間に合うと思うよ」
美江なりの優しさだった。この子はやる気はあるから、もっと人数ギリギリの初心者の子も混ざっているチームの方が試合にも出られて、本人にとって幸せな道を歩けるに違いない。
「まったく、美江はわかってないわね。そんなところで頑張ったって日本一にはなれないじゃない。わたしは日本で一番すごいピッチャーになるんだから!」
ミレーヌは大げさに両方の手のひらを上に向け、肩をすくめながら、呆れたとでも言いたそうな顔をした。だけど呆れという感情を表したいのは美江のほうである。
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