第150話 才能無しのドール少女①
中学時代、美江の所属していた野球チームである
練習もこの辺りでは一番きつくて苦しくて、カッコいい女子野球選手たちに憧れて軽い気持ちで入ってきた子たちが次々にやめていく。野球の楽しさを知ってもらい女子野球の人口を増やそうという時代の潮流とは対極にあるようなチームだった。
美江が中学2年に進級した年の春にもまた、例年通りたくさんの新中学1年生たちが入ってきた。そんな初々しい彼女たちを見て、今年は何人残るのだろうかと美江はぼんやり考えた。
入って来た新1年生の数が26人、中学2年生の数が7人、中学3年生の数が8人。随分歪な人数構成になるが、また2,3ヶ月もすれば新1年生の大半がやめるから、結局最終的には1年生も2,3年生と同じくらいの人数に収束するのであることは簡単に予想できた。
ずらりと並んだまだあどけなさの残る新1年生たちはそんな現実を知らず、キラキラした目で自己紹介を始めていた。
好きな野球選手の名前として出てくるのは誰もかれも湊唯。美江は辟易した。別に湊唯選手に恨みはないが、湊唯が好きだと公言する子がこのチームで野球を長く続けられるようなことはほとんどないと美江は思っている。
湊唯が好きだという人たちは、煌びやかなマウンドで輝くカッコよくて麗しい野球選手としての湊唯しか見ていない。
シーズンオフに毎日のようにバラエティー番組に出演して、美人過ぎるNPBプレーヤーという呼ばれ方をしていた明るい部分での湊唯しか憧れの対象ではないのだろう。
2年目のオープン戦で打ち込まれて以降、ほとんど登板なく、3年目のシーズンオフに自ら退団を申し出た陰の部分を彼女たちは見ているのだろうか?
小学生の頃に美江が見に行った2軍戦での引退間際の病的なほどにやつれた湊唯の姿は、とてもスポーツ選手には見えなかった。彼女の中できっといろいろと思うことがあったのだろう。
そういう暗い部分も含めての湊唯なのに、今美江の目の前にいる目を輝かせて好きな選手に湊唯をあげる子たちは、スーパースターの湊唯しか見ていない。
(今年は例年以上にたくさんやめるかもしれないな……)
そんなことを考えながら、美江は冷めた目で誰が残るか予想していた。
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