第139話 息ピッタリのバッテリー②
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打席に立つ小峰華菜という人物をキャッチャースボックスから見た美江は、先ほど初対面の時に受けた華菜への印象を変えざるを得なかった。
試合前にトイレの近くですれ違ったとき、華菜に対しては周りの部員に振り回されていそうな脇役というイメージを抱いた。中学時代にそれなりに注目されていた小峰華菜という少女に対して持っていたイメージとはまったく違い、オーラの無い子という印象を受けた。
だが、今打席に立っている華菜を見るとそのイメージは一変した。美江のように子どもの頃から全国レベルの場所で戦っていると、佇まいとか視線とかで、天才肌の持つオーラみたいなものがなんとなくわかるようになるが、小峰華菜からはそのオーラのようなものが感じ取れた。
ほんの一瞬だけだが、華菜に呑まれてしまいそうになり、美江は慌てて深呼吸をして気分を落ち着かせる。
「ねえ、さっきの犬原千早って子は野球初心者だったの? ビックリするくらい打てなさそうだったけど。桜風って初心者の集まりなのかな?」
美江は華菜の心の動揺を誘いたくて、あえて挑発めいた言葉をかけた。
打席で対戦するのはあくまでも投手と打者ではあるが、投手が投げやすいように環境を整えてあげるのは捕手の重要な仕事である。そのためなら美江は、投手が球を投げる前や試合開始前にも、隙があれば相手選手の動揺を誘うことにしている。
とにかく投手が気持ちよく球を投じる為にはなんでもするのが美江のやりかただ。だから今回も、なんでもいいから先ほど会った時の、ただの年頃の明るい女の子である小峰華菜を引き出したかった。
だが、華菜からは何の返答も無い。動揺するどころか、多分本人は無視しているつもりすらないのだろう。もう華菜は既に自分の世界に入っている。いくら美江が声をかけても届かないだろう。華菜はすでに投げてくる投手の球を打つだけの機械と化しているようだ。
(これは厄介だな……)
試合前に美江が、ミレーヌにとって今日一番相性が悪そうだなと感じたのがこの小峰華菜だった。どんな球でも上手く合わせてヒットゾーンに落とす技術は、スローボールを駆使するミレーヌとの相性が悪い。
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