第138話 息ピッタリのバッテリー①

1回表の桜風学園の攻撃、審判の試合開始を告げる声を打席で聞いていた千早は思わず間の抜けた声を漏らしてしまった。


「広いなぁ……」


打席から見た球場は外から見ていた時よりもさらに広く感じた。学校で練習していた時とは全く違う、広大な球場に思わず嘆息し、気後れしてしまう。


唯一の救いは、マウンドに立っている少女が千早よりもさらに小柄な、幼げな子だったということだった。


同じチームの由里香が投球中に発している、近寄りがたい威圧感みたいなものは全くない。由里香とは対照的にマウンドの菜畑ミレーヌは頭でも撫でてあげたくなるような可愛らしい子であった。


だけど、その見た目とは全く違い、ミレーヌの球は全く甘くはなかった。捕手の美江のリード通りの場所に正確に投げ込まれて行く球は、千早のバットを面白いように避けていく。あっという間に三球連続でバットが空を切り、空振り三振に倒れてしまった。


千早はガッカリしながら、ベンチの方へと戻っていく。ネクストバッターズサークルから打席へと向かう華菜とすれ違ったので、いつものように気軽に声を掛けようとした。


「ごめんね、華菜ちゃん。三振しちゃっ……た」


だが、千早は言葉の語尾を急激に弱める。千早とすれ違ったときの華菜は、今まで見た事のないくらい真剣な顔をしていた。なんだか気軽に声をかけてはいけないような、そんな気がしてしまい、慌てて千早は口を噤んだのだ。


初めて見た華菜の選手としての凛々しい佇まいを千早はしばらく無意識のうちに目で追ってしまっていた。


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