第135話 球場は広く、世間は狭い②

向こうからはこちらに向かって、ユニフォーム姿の女子が2人歩いてきていた。1人は170cm近くありそうな背の高い子、もう1人は逆に150cmもないことが一目でわかるくらい小柄な子。


その2人が昨日のミーティングの時に特に話題になった若狭わかさ美江みえ菜畑なばたけミレーヌであるということは一目でわかった。ユニフォームの胸元に書いてある“皐月”の文字が目立っていた。


「ねえ、あの2人って……」


華菜の言葉に凄美恋が頷いたのとほとんど同時に、向こうの方から背の高い方が凄美恋の方を見て声を掛けてきた。


「あれ、もしかして大阪にいたバッピちゃんかな?」


「バッピちゃん?」


華菜が首を傾げた。バッピと聞いて思いつくのはバッティングピッチャーの略称ということくらいだが、瞬間的に凄美恋の顔が赤くなったからバッピちゃんというのが凄美恋のことを指していることがすぐにわかった。


「うち、もうピッチャーやってへんもんね!」


「そっか。バッピちゃんなら5回で試合終わって早く帰れると思ったのに」


若狭美江が凄美恋のことを挑発する。県予選は5回で7点差以上ついたらコールドゲームになるので、投手のレベルが低いと最終回の7回まで試合が出来ず、コールドゲームになってしまう。それこそ春季大会の皐月女子高校のように……。


「ねえ、凄美恋って若狭さんと知り合いなの?」


華菜がおそるおそる2人の間に割って入る。会話を聞いた感じ明らかにこの2人は面識がある様子だった。


「いや、知り合いとかやなくて、そのなんていうか……」


「2年前の春に全国大会で当たったんだよね」


凄美恋が答える前に美江が答えた。凄美恋はなんだかバツが悪そうにしている。


「たしか凄美恋ちゃんは4回12失点だっけ。降板した後ベンチで泣いてて可愛かったんだよね」


「うっさい! うっさい! 泣いてへんし! 花粉症なだけやし!」


凄美恋は華菜に聞かれるのが恥ずかしいからか、美江の言葉をかき消すように大きな声を出す。


「ぜ、前回はうちが投げたから打たれたけど、今回はちゃうで! うちのエース湊由里香様があんたのことなんて全打席三振に抑えたるからな!」


凄美恋が虎の威を借りていると、今度は美江の横から甲高い声が聞こえてきた。


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