第136話 球場は広く、世間は狭い③
「湊選手の妹さんだってすごいかもしれないけど、うちの美江はもっとすごいんだから! そんな簡単に三振なんてしないわよ!」
ふふん、と自身満々な様子で腰に手を当てて言うが、まったく威厳を感じられない。美江や凄美恋の肩くらいの背丈の小さな女の子が話に入ってくる。
洋風なブロンド色の髪と、大きな碧い目も相まって、海外の吹き替え映画で小さな女の子が話しているように感じられた。映像で見た時よりも実物はさらに小さくて可愛らしく、この子がマウンドに上がっている姿はとても想像できなかった。
「ちびっこは黙っとき。あんたは黙ってベンチから若狭が三振取られてるとこ見とけばええねん」
凄美恋が菜畑ミレーヌに言う。
「私の名前はちびっこじゃないわよ。菜畑ミレーヌよ!」
ミレーヌが凄美恋の方へ身を乗り出すようにして思い切り背伸びをしながら自己紹介をするが、それでもミレーヌの方が凄美恋よりずっと視線は低かった。
「皐月女子も全然人集まらんからこんなちびっ子を野球部に入れて水増ししてるんやな。たしかに可愛らしい子やし、戦力にならんくてもチームマスコットとしては優秀やと思うわ」
つい先日部員9人集まったばかりのうちが言えることではない気もするが、という言葉が華菜の喉元まで出かかったが、一応飲み込んだ。
先程まで自身が煽られても終始穏やかな表情をしていた美江が、心なしかミレーヌのことを小ばかにするような発言を聞いて少しムッとした顔をしたように見えた。
「ふふん、なんとでも言ったらいいわ。でも、試合が始まって泣きべそかくのはあなたたちなんだから! なんてったって今日の先発は――」
「ミレーヌ、そろそろ戻ろうか」
ミレーヌが何か大事そうなことを言おうとしたが、その前に美江が止めた。
「じゃあ、私たちは先に戻るから。また後でね、バッピちゃん。それと、小峰華菜さん」
美江とミレーヌが去っていった。
「あんた、もしかして若狭に要注意人物扱いされてるんちゃう?」
華菜は苦笑してごまかしたが、美江の去り際の華菜のフルネーム呼びには何か含みを感じたことは否めなかった。
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