第132話 試合前日の呼び出し③
由里香がほんの少し逡巡してから、悩みながら話し出した。
「今の桜子では多分私の本気の球は捕れないわ。あの子は別にキャッチングは下手じゃないけど、ソフトボールの時の捕り方をしていて、硬球を捕っていくにはまだまだ練習が必要なのよ」
「だけど勝つ為には多少リスクを冒してでも、思いっきり投げるべきです。少なくとも練習でしっかりと捕らせるべきなんじゃないでしょうか?」
「だけど本気で投げたら怪我のリスクがあるわ」
「スポーツに怪我は付き物ですよ! それに由里香さんもエースなんだったら、きちんと正捕手である桜子さんが捕ってくれることを信じるべきじゃないでしょうか? そんな心配し出すなんて一体どうしちゃったんですか?」
怪我を怖がって手を抜くなんて由里香らしくない。華菜は思わずきつい口調になってしまう。
「そうね。部員がしっかりと控えメンバーまで揃っているチームなら、勝つ為の最善策として多少の怪我のリスクを桜子に負ってもらってでも、大会に間に合わせるために本気の球を捕ってもらう練習を早急にしておくべきだったと思うわ。だけど今のうちのチームでそれはできないわ。誰か1人欠けたら私たちは勝ち負けの勝負の場にすらあげてもらえないのよ?」
「そう、ですね……」
華菜は静かに頷いた。由里香の意見はもっともである。現在桜風学園野球部は部員9人。誰か1人怪我でもして、試合に出られなくなったらその瞬間に没収試合で棄権負けになってしまう。
それが投手の球をまともに取れなかった結果負傷で棄権負け、なんてことになったら桜子のプライドはどうなるのだろうか。
桜子の性格は、まだ華菜の中では自分にだけ冷たい先輩というイメージくらいしかないが、生徒会長をやっていて、いつも放課後も生徒会室に残っているし、きっと真面目な人なんだろうなとは思う。
そんな桜子が、自分が由里香の球を取れず、チームは試合に出ることすらできなかった、なんてことになるとかなりの責任を感じてしまうだろう。
だから多分、この由里香の判断は正解なんだと思う。
「でも、勘違いしないでよ。あくまでも桜子の捕れない球を投げないというだけで、私は使える球の中から試合状況に応じて、抑えるための最善の投球を桜子と一緒にしていくんだから。うちの学校で学年トップを取れる桜子なら、限られた球種だけでしっかりと抑えられる配球を考えてくれると思うわ」
「限られた球種だけ……?」
由里香がしまったというような顔をした。
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