第131話 試合前日の呼び出し②
「どういうつもり?」
「思いっきりお願いします!」
困惑する由里香をよそに華菜は一方的に話を進める。仕方なく由里香はいつものように優雅なフォームで華菜に向かって投げ込んだ。華菜がボールを難なくキャッチする。
「やっぱり」
華菜はボールを持って由里香の元に駆け寄る。
「由里香さん、今の本気で投げました?」
「本気よ、本気」
「本当ですか? ほんとに本気で投げましたか?」
「本気よ。あたりまえじゃない」
「由里香さんの球はこんなに遅くないです」
由里香が華菜の元に投げ込んだのは、全盛期どころか、練習中に桜子に投げている球よりもずっと遅い球だった。
「そりゃ、前も言ったけど、あなたをノーヒットに抑えた中学時代よりも球速は落ちてるわよ。ブランクがあるんだから当たり前じゃないの」
「そういう意味じゃないです。練習で桜子先輩に投げているときよりもさらに遅いってことを言ってるんですよ!」
「別に本職がキャッチャーでない華菜相手に本気で投げてないだけよ」
「さっきは本気で投げてるって言ってたじゃないですか……。まあ、それはいいとして、桜子先輩相手でも本気で投げてないですよね? 由里香さん、意図的に桜子先輩に投げるときにセーブしてますよね?」
由里香の球を打席で見た時に、昔見た時よりもずっと球威がなくてがっかりしたが、その割にコースは比較的正確に投げ分けられていることがずっとどこか心に引っかかっていた。
本当に実力が全然足りていなくて、遅い球しか投げられなくなっていたのだとしたら、そのコントロールの良さはあまりにも不自然過ぎた。
この間の練習中は由里香に球速の遅さを指摘した時には困ったように笑ってごまかされてしまったが、今日は真面目な表情で声を潜めるように華菜に言う。
「ねえ、それ桜子に言ってないわよね?」
「ええ、言ってませんよ。多分由里香さんのことですから意図があってやってるんだと思いますし、私が首を突っ込んでいいことなのかわからなかったので」
「よかったわ。あの子に言ったらまた『どうして手を抜いてるんですか! 私相手に本気で投げられないのでしたら、やっぱり野球部に入らない方が良かったです!』なんて言い出しかねないから」
由里香の桜子のマネがあまりにも似ていて華菜は吹き出しそうになる。
「でも本当ですよ。いくら由里香さんでも手を抜いて抑えられるかわかりませんよ? 守備だってうちのチーム不安な部分が多いですし、できれば三振狙ってくれた方が……」
センターラインは初心者ばかりで不安が多い。だからできれば由里香には守備の不要な三振を狙って欲しかった。
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