第127話 小さな要注意人物②
ミーティングルームのようなものがあればいいのだろうが、残念ながらこの野球部にはそんなものはなく、部室内で怜の私物であるノートパソコンを使って春季大会の皐月女子高校の映像をみんなで体をくっつけるようにしながら確認していくことにした。
小さな画面を10人で覗くのだから必然的に密度も高くなってしまう。
「暑いですね……」
「文句言わないでください。暑いのは小峰さんだけでは無いのですから」
華菜の不満を桜子が一蹴するが、桜子も顔に汗を浮かべていた。7月上旬にこんなことをしていたら当然蒸し暑いに決まっている。おまけに部室にはエアコンなんて気の利いたものは無いのだから、熱中症の危惧すらある。
「とりあえず再生しますわね」
怜が汗を拭いながら再生ボタンをクリックすると、春季大会の映像が流れ始めた。
今年の春季岡山大会1回戦星空学園vs皐月女子。華菜は先日の抽選会の日に富瀬から簡単に春季大会の情報は聞いていたが、いきなり1回戦で県内最強の星空学園と当たるとは皐月女子もくじ運がないな、となんとなく思った。
試合は初回から話にならないくらい一方的な展開だった。
皐月女子の先発の背番号1をつけた3年生ピッチャーが、気持ちが良いくらいに連打を浴びていた。遅い棒球のストレートと、ほとんど変化しないスライダーのような球しか投げていない。
多分星空学園の観客席にいる、ベンチから外れた野球部員の方が良い球を投げると思う。だけど、背番号1を付けているということは皐月女子高校の中では一番良い球を投げるということなのだろう。
その後も4回まで計3人のピッチャーが継投したが、誰も星空学園打線をまともに抑えることができず4回終わった時点で15失点。
打線も星空学園先発、背番号1の3年生佐藤
女子高校野球予選の規定では、5回終了時点で7点差がついていたらコールドゲームになってしまうため、皐月女子が5回裏の攻撃で7点を入れなければ試合は終わってしまうが、皐月女子打線が突然7点を入れるなんてことはほぼ不可能に近い。それでなくとも5回表の星空学園の攻撃で追加点が入ってしまうことは簡単に予想できてしまうのに。
そんなことを考えながら映像を見ていた華菜だが、5回の表にマウンドに上がった皐月女子の背番号18番のピッチャーに気づけば目が釘付けになっていた。
(この子何者?……)
その感想は華菜だけが抱いたものではなかったのか、気づけばみんなで顔を見合わせていた。
マウンドに上がっていたのは身長150cmにも満たないことが目測でわかるような小柄な子。綺麗なブロンドカラーの髪をふわふわさせてマウンドに上がる大きな碧い目をくりくりとさせた女の子は、まるで海外映画の人気子役みたいに可愛らしかった。
それだけでも充分にインパクトのある子なのだが、投球内容はそのほとんどがスピードガンで計測不能なくらいの遅い球。
星空学園打線どころか桜風学園の打線でも滅多打ちできそうなくらい遅い球なのに、なぜかこれまで猛打を放っていた星空学園打線が嘘みたいに沈黙していた。
内野ゴロ2本と三振で、たった8球で星空学園のスコアボードに0の数字を
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