第126話 小さな要注意人物①
今日は野球部員全員が部室に集まっていた。顧問の富瀬は一応抽選会の日以来練習を見に来てくれるようになったが、部室に来るのはこれが初めてだった。
「なんだよこの部室。ボロイなあ」
富瀬が思ったことをそのまま口にしたので、怜が富瀬を睨みつけていた。一応理事長の娘として、愛着のある学校の悪口を言われるのは嫌なようだ。そんな怜の視線に気づくこともなく、富瀬が話し始める。
「明日は初戦だからお前らには集まってもらった」
「一応富瀬さんも明日試合ということは覚えてましたのね」
先程校舎の古さを指摘されたお返しか、怜が嫌味まじりに言う。
「まったく、あたしを誰だと思ってんだよ。きちんとお前らの適正見定めるために黒井に過去の資料とかも借りてオーダーを考えてきてやったんだから」
(黒井……?)
富瀬の言葉を聞いて、華菜の頭に中学時代に自分のところに度々取材に来ていた同名の女子野球雑誌記者の名前がパッと浮かんだ。だけど、黒井なんて苗字の人物はいっぱいいるからとくに気にすることも無いかと思い、すぐに明日のスタメン発表へと心を向け直す。
「まあとりあえず、明日のスターティングメンバーから発表するぞ。といっても9人しかいないし、全員試合には出られるからそんなに緊張する必要もないけどな」
9人しかいない、けど9人揃ったのだ。試合に出られるだけのメンバーが、ようやく揃ったのだ! 華菜はそんな感慨をひっそりと心に浮かべながら、富瀬の発表を待った。
「1番、センター犬原千早。2番、サード小峰華菜。3番、ライト雲ヶ丘
富瀬のオーダーは思ったよりも無難だった。
1番にとにかく足の速い千早をおき、2番にバットコントロールとミート力のある華菜を置く。3番凄美恋、4番由里香、5番怜とクリーンナップには背が高くて、ホームランも狙えるメンバーを並べている。
6番以降にはヒットの出る可能性の高い順に打者を並べたのだろう。菱野姉妹はまだほとんど守備練習しかしていないような状態なので、ヒットが出る確率は極めて低いから、少しでも打席の回らない打順に置いておいた方が良いという判断なのだろう。
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