第128話 小さな要注意人物③

結局、試合自体はそのまま15-1という一方的な展開のまま終わってしまった。


とりあえず皐月女子高校が強豪校ではないことが確認できたし、15失点をした投手陣は明らかに弱点であると言ってしまってもいいだろう。


だが、部室内は静まっていた。明らかにみんなの意識は背番号18の小さな子へと向かっていた。


「なんだか不気味ね」


静まり返った部室の中で由里香がポツリと呟いた。


少しタイミングを合わせれば小学生でも打ててしまいそうな力のないスローボールに全国レベルの強豪校の星空学園の上位打線がまったくタイミングを合わせられずに3人で攻撃を終わらせた。


例えば速球派の投手から遅い球の投手へと継投したのならタイミングが合わないというのも理解はできる。だけど、ブロンドカラーの髪の子の前に投げていた投手の球も90キロ前後の遅い球だったから単に球速差がありすぎてタイミングが掴めなかったというだけの話ではなさそうである。


「1年生ピッチャー相手で、点差もあったから手抜いたんちゃう?」


「もしくはあまりにも遅すぎて初見ではタイミングが取れなかったってところかしらね」


凄美恋と由里香が冷静な分析を始めていた。華菜もその2人の意見に概ね納得ではある。


だけど、それ以上に何か前に投げていた3人の投手とはどこか違うように思えた。それが何かは残念ながら画面越しでは分からなかったけど……。


菜畑なばたけミレーヌ。中学時代は皐月女子の正捕手若狭美江と同じく、岡山県内の強豪シニアチームの美観びかんガールズに所属していた。ただし、公式戦での登板はほとんどない。1年生と3年生のときはずっと控えで2年生の夏の大会だけはレギュラーとして投げて、負けた試合以外は完封してるね」


美乃梨が滔々と話し出す。さらりと説明してくれる当たり、伊達に中学時代を野球観戦に捧げていないと華菜は感心する。


「美乃梨先輩さすがですね」


「美観ガールズは岡山県の女子野球観とくのなら絶対抑えとかないといけないシニアチームだからね。毎年何人も星空学園筆頭に全国の強豪校のレギュラーを輩出してる名門シニアチームだから、そこの出身の子ならある程度データは叩き込んであるよ」


そう言って美乃梨が自分の頭を人差し指でコンコンと叩いた。


「でもその美乃梨の情報をそのまま飲み込んだらやっぱり少し不気味よね?」


由里香が腕組みをして考えながらポツリと呟いた。

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