第122話 もう1時間もない②
華菜と富瀬は何とか時間ぎりぎりに会場で受付を終えることができ、抽選会場に使う大きめの会議室のような部屋で2人並んで座っていた。
男子の方だと抽選会場はホールみたいな大規模な場所になるのだろうけど、女子の場合は参加校が24校と少ないこともあって、そんなに広くはない。
知ってる子がいないかとキョロキョロあたりを見回してみたが、中学時代は男子メインのシニアチームでプレイしてきた華菜には知らない子ばかりである。
ただ、詳しくは知らないものの、湊唯の出身校である星空学園が県内最強校であるということくらいは知っている。
チラリと星空学園のキャプテンの方を見てみると、背筋を伸ばして王者の佇まいをしている子が見えた。
この会場の他の子たちに視線を向けることは無く、ただ鋭い視点で前だけを見ていた。その真っ直ぐ見据えた視線の先にあるのはおそらく県大会ではなく、全国大会なのであろう。
星空学園にとって県大会というのはきっと勝ち抜いて当たり前の場所なのだ。
それ以外の学校の子たちは華菜と同じようにチラリと周囲の子たちの姿を伺っている子もいて皆どこか緊張した面持ちであった。
いろんな子たちの視線や思惑が飛び交い、室内には大会前特有の独特な緊張感が生み出されていた。
華菜も大きく深呼吸をしていた。
「いやー間に合ってよかったな」
そんな華菜の緊張感なんてお構いなしに富瀬が軽い口調で話しかけてくる。
「よ・く・な・い・で・す・よ!!! あと30秒遅かったら棄権扱いされるとこだったんですから!!!」
先程、受付のおばさんから「時間過ぎたら棄権扱いで抽選会に参加できなくなるところだったから間に合ってよかったねぇ」と半分嫌味のようなことを言われたばかりである。
「大丈夫に決まってんだろ。あんなんどうせちょっと遅れても融通きかせてくれるんだから」
「生徒に時間厳守を教える側の立場の先生が言っていい言葉じゃないですよ!」
あやうくこのずぼらな先生のせいでせっかくのみんなの苦労が水の泡になるところだった。夏の大会に出る為に9人頑張って集めた結果が抽選に遅刻して棄権なんてことになったらシャレにならない。
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