第109話 桜子の苦悩④
「あの、何のお話ですか?」
「何のお話も何も、周囲が上級生ばかりの中で、プレッシャーもあるでしょうに、頑張って人一倍仕事をこなしてくれている桜子生徒会長に労いの言葉をお伝えしたまでですわ」
怜の意図がわからないので、桜子は静かに続きを待つことにした。
「今まで我が校の生徒会長は、2年生の秋から3年生の秋にかけて務めることが通例になっていましたわ。ですので、それがいくら品行方正、成績学年トップの桜子さんであっても、先輩方から当初は白い目で見られていたでしょうに。ですが、今までの生徒会長に例を見ないくらい、遅くまで生徒からの要望に目を通し、必要に応じて先生方にも掛け合って信頼関係を築き、伝統だろうと悪習は変えていく。そして、困っている生徒を学内で見かければ積極的に声を掛けてくださる。理事長の娘としても、我が春原家の運営する学校を良い方向へと導いて下さっている桜子さんには本当に頭が上がりませんわ」
「それはどうも」
桜子が形式的にお礼を言う。当然怜がお礼を言う為だけに桜子のことを褒めてくれているわけではないことはわかっている。
「何度も話が変わって申し訳ありませんが、うちの学校の部活動って随分偏っていると思いません?」
「今度は何の話ですか?」
桜子の生徒会活動を褒めてくれていると思えば、今度は部活動の話を始める怜に戸惑った。話が二転三転していき、話の軸がつかめない。というか、そもそも由里香の話はどこに行ってしまったのだろうか……
バラバラの話題を続けていく怜の意図を探ろうと、桜子は必死に脳内で話題を整理しながら続きを聞く。
「華道に茶道に日本舞踊にお琴。スポーツ系も弓道、剣道、薙刀等々。春原の家のわたくしが言うのもおかしな話ですが、我が校の部活動は随分偏っていると思いますの」
「それは、お嬢様学校としての伝統を重んじた結果ではないのですか? どれも日本古来から続いているような伝統的なジャンルの物ばかりで統一感もありますし、そこまでおかしな話ではないかと思いますけど」
「その和風で伝統的なものばかりのラインナップについてはわたくしも特に疑問はありませんわ。ですが、どうしてたった5人集めるだけで新しい部活動を作ることができるのに、誰も新規で部活動を作ろうとしてこなかったのでしょうか?」
「誰も新規の部活動に興味が無かったのではないですか?」
「それは桜子さんの、本心からの意見ですの?」
「それは……」
桜子が言い淀んでいると、怜がスタスタと生徒会室に置いてある大きな資料用の本棚まで歩いて行き、突然次から次へと収納してある資料を床にぶちまけだした。バサバサと、次々に床に資料が落ちていく音が聞こえる。
「春原さん、やめてください!」
予期せぬ怜の行動に桜子は慌てた。席から立ちあがり、急いで怜を止めに行く。
「春原さん、いきなり何をして――」
「ありましたわ」
怜は今にも破裂しそうなくらい大量の資料がまとめられた大型のバインダーを取り出した。
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