第105話 湊姉妹⑤

落ち込んだ華菜を見て、由里香が慌てて宥めにかかる。


「違うわよ、入らないわけじゃないわ。いくらなんでも私そこまで酷い人じゃないわよ!」


「じゃあ、どういうことなんですか?」


「1人どうしても先に報告しておきたい人がいるのよ。その人に野球部に入ることを伝えてから、改めて華菜たち野球部員全員の前で入部の挨拶をさせて欲しいの」


華菜は胸をなでおろした。ため息で力が抜けてしまい、その場にへたり込んでしまった。


「もう、びっくりさせないでくださいよ」


「ごめんごめん」


「その人、由里香さんにとっての大切な人なんですか?」


「ええ。私にとって、唯一無二の大親友よ」


そうやって由里香にきっぱりと言い切ってもらえる人物が羨ましくもあった。一体全体どんな人なのかもわからないが、華菜はその見ず知らずの人物にうっかり嫉妬してしまいそうになってしまう。


けど、嫉妬している場合ではない。ついに由里香が入ってくれるのだから、最後の9人目の部員を探して、すでに申し込みの締め切りまで1週間を切っている夏の大会に間に合わせなければならない。


「由里香さんのおかげで部員が8人になったし、私ももう1人勧誘頑張りますね!」


「あと、そのことなんだけど、私に心当たりがあるの」


由里香の思わぬ発言に華菜は目を向けた。


「心当たり?」


「ええ、さっき言った私の親友に声をかけてみようと思うわ。昔からずっと、その子とバッテリーが組みたかったの」


「どなたかわかりませんけど、由里香さんがそこまで言う方なら頼もしいですね!」


華菜はわくわくする。由里香が一緒にバッテリーを組みたいと思うような生徒がこの学校にいたなんて。


「きっと華菜も知ってる人だと思うわ」


由里香がどこかいたずらっぽく笑っているが、華菜には由里香と同じ2年生の知り合いに心当たりがなかった。


華菜が知っている2年生と言えば、由里香と怜と美乃梨。あと、一応生徒会長も2年生ではあるけど、間違っても野球部に入ることなんてなさそうだし。


むしろ由里香のことを野球部に誘うな、と言っていたくらいだから、こんなところで由里香と話しているのがバレたら怒られそうである。


そうなってくると、2年3組の教室に行ったときに華菜と由里香のもめ事を見ていた人ということだろうか。華菜が首を傾げたのを見て、由里香が笑った。


いずれにしても、これで部員は8人になり、ついに由里香も入部してくれることになるのだ。華菜は、由里香のことを信じて詳細不明のあと1人を待つことにした。

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